今日から高校生になった私は新品の制服を着て高校の門をくぐった。教室までは案内を見ながら進む。
「えっと、一年三組……あ、ここだ。」
ガラガラ、と無機質な音を立ててドアが開く。一瞬クラスにいる数人の視線が集中したが気にせずに黒板を見た。黒板には席順が書いてある。まぁ、私は一番前だろう。いつも出席番号は一番だ。一番端の前の席に座る。机の上に天野春歌と書いてあるシールが貼られていて小学生みたいで少し笑った。
ホームルームが始まる五分前、殆どの人が揃っていた。ガラガラ、とドアが開き、誰かが入ってきた。その人は黒板を見て、私の後ろの席に座った。
「あ、はじめまして。私の名前は天野春歌です。よろしくね。」
「はじめまして。俺の名前は五十嵐紬です。こちらこそよろしく。」
甘いソーダみたいな笑い方をする男の子だった。
「俺、殆ど出席番号一番だったから二番って違和感があるね。」
「私は二番になってみたいよ」
そんな会話を交わしてホームルームが始まった。
一通りホームルームが終わり入学式のために体育館へ行った。その間、誰かと言葉を交わすことは無かった。
その日はすぐに解散となった。高校デビュー初日と言っても特に誰かと話すことはなく、会話を交わしたのは五十嵐君だけだった。
次の日、私は普通にクラスメイトと話していた。自己紹介をしてから色々な事を喋った。朝のホームルームが始まる5分前、昨日のように五十嵐君は教室に入ってきて席に着くと私の肩をトントン、とつついて
「おはよう。」
と言った。私も朝の挨拶を返すとすぐに担任が来てホームルームが始まった。
それから毎日、五十嵐君とは朝の挨拶を交わした。毎日おはようと声をかけてくれることがとても嬉しかった。キラキラしたような笑顔に惹かれていった。
「五十嵐君ってかっこいいよね。」
そう友達に呟くと
「え!もしかして五十嵐君のこと好きなの!?キャー!青春!」
と言って私のことを茶化した。
「うん、好きなの。」
そう、自分で言ってしまうほど五十嵐君が好きだった。
ある雨の日のこと。私は昇降口で迷っていた。傘を忘れてしまった私はこのまま家に帰るとびしょびしょだ。あー、どうしよう。もう諦めるか。そんなことを考えていた時、声をかけられた。
「天野さん、傘ないの?」
振り返るとそこには片思い中の五十嵐君。
「えっと、傘忘れちゃって。」
顔が赤くなるのを隠すように下を向きながら話すと、五十嵐君は私に傘を差し出した。
「これ使って。俺の家、すぐそこだから。」
そう言って私に傘を渡すとすぐに走っていった。その背中を追うように走り、叫ぶ。
「五十嵐くん!ありがとう。また明日ね!」
そう言うと五十嵐君は振り返って
「じゃあね!」
と言って帰って行った。
その次の日だった。
五十嵐君が亡くなったのは。
「五十嵐が亡くなった。」
朝のホームルームで担任が言った。今日は五十嵐君が珍しく来なかったので私のせいで体調崩したのかな、と心配をしていた。
五十嵐君は誰とでも仲が良く、皆に親しまれていた。だからか、クラスメイトは皆泣いていた。
私を除いて。
「春歌、大丈夫?五十嵐君、好きだったんでしょ?」
そう、友達が声を掛けてくれたが、答える気にならなかった。その日はどうやって家に帰ったかも覚えてない。気づいたらベットにいた。
次の日、私は学校を休んだ。
何もする気になれなかったが、家の中にいるのも居心地が悪かった為、外をぶらぶらと散歩していた。前を見ずに歩いていたからか、ドンッと誰かとぶつかった。
「すみません。」
そう言って顔を上げると、そこには五十嵐君・・・にそっくりな人がたっていた。
「い、がらし、くん?」
そう、言葉に出してしまうほど彼は五十嵐君に瓜二つだった。彼は目を見開くと、ふっと微笑んだ。
「すみません、お怪我はありませんか?」
と私に尋ねる。
「こちらこそすみません、大丈夫です。」
そう答えると、彼はニコリと笑って
「お詫びにお茶でもしませんか?」
と言った。
彼は椿と名乗った。椿君は苗字を教えてくれなかった。まぁ、いいかと思いながらカフェに入る。席に着くとお互いメニューを見ながら飲み物を頼んだ。私はレモンティーを、椿君はココアを頼んだ。そういえば、五十嵐君もココアを学校で飲んでたな、なんてことを思い出す。
「さっきはすみません。1つ質問なんですが、“五十嵐君”って誰なんですか?」
急にそう言われ、なんて答えようか、としどろもどろしていると申し訳なさそうに
「言いにくいなら大丈夫です。すみません、変な事聞いて。」
そう謝られたらこっちが申し訳なくなってくる。
「いえ、大丈夫です。五十嵐は、私の好きな人です。・・・好きだった、人です。」
そう答えると同時に、飲み物が運ばれてきた。
「好きだった、ですか?」
そりゃあ、その反応になるだろう。
「亡くなったんです。」
そう言うと彼はすみません、と言った。
紅茶を飲みながらふと思う。そういえば、先生は五十嵐君が亡くなった理由教えてくれなかったな、と。聞いても分からないの一点張りで、でも明らかに嘘でしょって分かる顔で言っていた。

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