それから何事も起きることはなく平穏に航海を終えて、予定通り二日後の昼過ぎに船は無事にファッシ国の港町、ペルラへと辿り着いた。
 皆自然と甲板に出て、入港の時を見守っていた。
「おー、あれがペルラの町かぁ」
「綺麗だねぇ」
 海鳥が飛び交う空の下、潮風に髪をなびかせて姫さまとシミオン王子がはしゃぐ。かく言うあたしも踊りだしそうにワクワクしてるんだけどね!
 ペルラの町はなだらかな坂の上に作られているらしく、海の上からでも町全体がよく見えた。きっと栄えてるんだろう、凄く大きな町。たくさんの白い建物が立ち並ぶ中、町の真ん中辺りに他の建物とは違う感じの白い大きな建物があった。なんか、輝いてるように見える。
 舞踏会の会場となる領主城は、町よりもさらに離れた高い所、岬の上の方に建てられていた。白い壁に青い屋根のお城が見える。
 船がゆっくりと桟橋に着岸した。この港は貴賓用の港だそうで、他の船の姿は見当たらなかった。どうやら、船で来たのはあたし達だけみたい。
 アイリーン王女が皆をぐるりと見渡した。
「よし、もうすぐファッシ側が用意してくれた馬車が来るはずだ。それまでに準備を始めよう」
 うう、とうとうこの時が来たか……。
 昨日一日中ドレスの着付けやメイクの練習をして、付き合ってくれたメリンダさんも大丈夫って太鼓判を押してくれたけど、まだちょっと不安がある……。でも尻込みしても仕方ない、やるしかないんだ!
「っし! やりますよ、姫さま!」
「へーい。……たらこ唇にしないでくれよ~?」
「止めてください。過去の傷が疼くんで」
 あたしはどうも口紅を濃く塗りすぎちゃうんだよなぁ~。気をつけないと……。
 準備のために船室に戻ろうとした時、シミオン王子が言った。
「あれ? なんか桟橋に人がいっぱい来たよ」
 どれどれと皆で船のへりに戻る。
 数人の男性が転がるように、この船の前に走ってきた。
 銀色に光る鎧兜を身に着けた兵士さんらしき人が数人。それから少し遅れて、貴族風の男性がやってきた。
 貴族風っていうか、貴族だな。茶色のロングヘアを後ろで束ねた、小柄のまんまるの顔のおじさん。体の方もまんまるい。
 そのおじさん、兵士さんに支えられてしばらく肩で息をしていたけど、ふと顔を上げてこっちを見ると、慌てたようにペコペコ頭を下げた。兵士さん達も一緒にペコペコ頭を下げる。
 そしておじさんが合図をすると、兵士さん達が木のスロープを運んできた。そしてまたペコペコ。
 なんかこっちに用があるみたい。
 アイリーン王女がおじさんに合図を送ると、おじさんが兵士さん達に命令して船にスロープを掛けさせた。 
 それに乗って、おじさん達が船に乗り込んでくる。
「アイリーン王女殿下! それにセルマ国のシミオン王子殿下とバートランド国のベアトリス王女殿下! ようこそ、ファッシ国へいらっしゃいました! わたくし、マルコ・デマルコと申します!」
 ダジャレか?
 船に乗って開口一番、よく通る高い声でおじさん……マルコさんは、歓迎の言葉を早口で捲くし立てた。
「皆様がいらっしゃるのを我々一同、首を長くしてお待ちしておりました。いやしかし、噂に違わず姫君はお美しく、シミオン王子殿下はこう、天使のように気高くていらっしゃる! いやしかし、噂とはあてにならぬものと思っておりましたが、これは考えを改めざるを得ませんな! いやしかし、皆様ご無事でのご到着、誠に嬉しゅうございます。いや、このレグバー海峡は安全とは分かっておりましたが、万一の事があればこのわたくしは――」
 このいやしかしおじさん、ペラペラペラペラと話がなっがーい。いつ終わるんだろ。用はなに?
 ややうんざりムードが漂っていることにも気づかず、いやしかしおじさんは話し続ける。後ろの兵士さん達の顔はそれにつれてどんどん青褪める。
「デマルコさん。申し訳ありませんが、ご用件をお話しいただけますか。こちらも時間がありませんので」
 おじさんの話をアイリーン王女がぶった切った。ちょっとこめかみがひくついてる。
「こ、これは申し訳ありません! つい癖で話しすぎてしまいましたな。いやこれがわたくしの悪い癖と妻と子にもいつも言われておりましてついこの間も、……え、えー。この度わたくしがここに参りましたのは、皆様に謝罪とお願いがありまして、参らせていただいた次第でございます、はい」
 おじさん、話が逸れそうになったけど、アイリーン王女に睨まれて慌ててペコペコ話し始めた。
「えー、わたくしどもの手違いがございまして、実は……まだ馬車の手配が出来ていないのです。いや本当に申し訳ございません。いやしかし、一時間ほどお待ちいただければ、すぐ参りますので!」
 すぐじゃないじゃん。一時間待つじゃん。
 しばしの静寂。
 そしてあたし達もおじさん達も皆、ゆっくりと空を仰いだ。
 澄み渡る空。真っ白な雲。気持ちよさそうに飛ぶ海鳥が行き交う。
 ……そして、中天を大分通り過ぎた太陽。
 さっきお昼過ぎに到着したって言ったけど、より詳しく言うなら午後三時くらいの日の傾き感。時計を見てないから正確じゃないけど。
 ちなみに舞踏会は午後五時からで、その会場のお城までは普通の馬車で小一時間かかるらしい。
 ……時間ギリギリじゃない? 間に合うの? 間に合わなくない? ……うちの馬車が使えればなぁ。問題なかったんだけど。
 気まずい沈黙が場を支配する。
「ではどんな馬車でも結構ですので、他の馬車はありませんか? もしくは他の乗り物とか。あ、馬を貸していただければ、僕たちはそれに乗って行きますが」
 気まずい沈黙を裂くように、シミオン王子が提案を出した。
 王族の人達を荷馬車とかで運んだり、自分で馬に乗せて行かせるのはどう考えてもよろしくないけど、背に腹は代えられないしね。それも仕方ないかも。
 しかし、いやしかしおじさんは気まずそうに答えた。
「……申し訳ございません……、この町には今、他の馬車や馬などの用意がある者は無く……。近隣の町からよこそうにも、一日以上離れた場所でして……」
 え、本当に? ペルラの町って商売も盛んでしょ? 商売人の人とか、馬車持ってないの? でも無いって言ってるんだから、無いんだろうなぁ。えー……。他になんとかなんないの?
「うーん、じゃあ歩きではどんだけかかるんですかね? あっちで着替える部屋を貸してもらえんなら、歩いて行きますけど」
 これは姫さま。緩やかとはいえ坂道をドレス来て歩くとか止めてくれい。今歩きやすい服は持ってきてないんだから。
「えっ、徒歩ですか? 徒歩では三・四時間かかってしまいますが……」
 おじさんはびっくりしながら答えた。そりゃそうだ。歩き上等のお姫様なんて、この国にはいないだろうな。幸か不幸か、この選択肢は論外だった。よかった。
 しかし、三・四時間かぁ。ここからだとそうは見えないけど意外と遠いのね。
「……あー、それは……、……仕方ないですね。えっと、では馬車の準備ができたら教えてください。我々は船内で待っていますので」  
 もうアイリーン王女もそう言うしかないよねぇ。
 八方塞がりとはこのことだ。ここにきてまさかのハプニングである。でも本当に仕方ない。
 まあでも、お化粧とか着付けの最後の練習ができると考えればいいか。
 どやどやと一同船内へ戻ろうとした時だ。
「あ、あのっ……」
 背後からかすれた甲高い声が、風に乗って辛うじて聞こえた。
 振り返ると、視線が集まった事で一瞬ぎょっとしたおじさんが汗をふきふき、慌てて話し始めた。
「えー、それでですね。もしよろしければ、せめてこの町をご案内させていただいて、時間潰しにでもしていただけたらと思いまして……その……」
 消え入りそうなほどに声がしぼんでいく。おじさんの後ろでは兵士さん達が懸命に頷いていた。
 ひょっとしてお詫びのつもりかな。それにしても唐突だなぁ。
 ペルラの町は観光地としても有名だから、ちょっと興味はあるけどね。でもあたしはそれより練習がしたいかなぁ。完璧にできる自信をつけたい。
「お、いいねぇ。お願いしよっかなぁ。お土産買わんといかんし」
「なら僕も。ペルラの町は前々から興味あったんだよね」
 ノリノリなのは姫さまとシミオン王子。
「ならば我らも行きますぞ。ですな、デニス殿」
 渋い顔したヘイデン様と、ぷるぷる頷くデニス様。
「私はパスだ。やる事があるのでね」
 アイリーン王女は行かないようだ。
 姫さまについて行こうとしたアーサー様が一瞬、迷うような素振りを見せた。アイリーン王女と一緒にいたいんだろうな。でも、騎士としての葛藤もあると。
 それに気がついた姫さま。
「ならアーサーも残りな。ヘイじいがいるから大丈夫だろ」
「……ありがとうございます、姫さま」
 と、気づかってあげた。アーサー様が嬉しそうな笑顔を見せる。アイリーン王女も綺麗に微笑んでいた。
「お前はどうする?」 
「あたしはまだ練習したいので、残ります」
「そっか。じゃ、行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
 赤いロングケープをひらめかせて、姫さまはおじさん達について行った。
 ……さて、あたしも最後の追い込み、がんばるか!
「リタさん、練習をするなら私も付き合いますわ」
 メリンダさんが言ってくれた。
 助かるなぁ。自分一人だとやってるうちによく分からなくなるから、やっぱり外から見たアドバイスがほしいもの。でもメリンダさんだってアイリーン王女と準備があるんだろうに、いいのかな。
「ありがとうございます。でもいいんですか?」
「ええ。いいんですよ」
 メリンダさんが目配せする。
 後ろを見ると、アーサー様とアイリーン王女が早速いい感じだった。なるほどね。
 心置きなくメリンダさんに練習に付き合ってもらうことにした。
   
「おー、いい感じなんじゃない?」
 メイクの練習を始めてどれくらい時間が経ったか。練習に付き合ってくれたメリンダさんは、途中でアイリーン王女の支度に行った。
 慣れない作業ゆえに時間は掛かったけど、メリンダさんにもらった練習用マネキンに無事、メイクを終える事ができた。
 自画自賛みたいだけど、ちゃんとエリン様のメイクみたいに上手くできてる!うんうん!
 これなら本番も大丈夫でしょ。いやー上手くなったもんだなぁ! ま、エリン様が根気よく教えてくれたおかげなんだけどね。
 達成感を胸に、大きく伸びをする。ずっと同じ体勢でいたから疲れちゃった。
 ふと、部屋の外が騒がしくなった。
 なんだろ。
 疑問に思ってドアを開けようとした瞬間、向こうから盛大にドアが開いた!
「リタたっだいまぁ~~~」
「おわっ、ひめさまぁぁぁああ⁉」
 今日の姫さまはクリーム色のひらひらなドレスに赤いロングケープを羽織ってるんだけど、そのケープがやたらとキラキラしてる。
 なんでかと思ったら、細かいガラスが刺さってるからなんだよね!!!!よく見たら、裾の所にでっかいガラスの破片が刺さってるし⁉
 どうしてそうなった!!!!
「ひめ、姫さま‼ 医務室、医務室!!!!」
 急いで姫さまを医務室に連れて行こうと手を引っ張る。
「落ち着け落ち着け、大丈夫だから」
 なんとまぁ、のんきな!!!!
「なにが大丈夫なんですかぁぁぁ⁉」
「ほれ、よく見ろ。怪我は一切してないから」
 姫さまがケープを脱いで手をひらひらとさせた。
 その言葉に姫さまをよく観察する。
 確かにクリーム色のドレスには、どこを見ても血が一切滲んでいない。
 ……ああ~、良かったぁぁぁ!!!!
 安心しすぎてへたり込みそうになった。
 そんなあたしを見て姫さまはケラケラ笑っている。おのれ。
「もう! 何がどうしてそうなったんですか⁉」
「それは後で教えてやるよ。それよりそろそろ馬車が来るから支度しろってさ」
 姫さまが、持っているケープをその辺に放り投げそうな気配をさせたので、部屋の隅にあったバスケットをさっと差し出した。
 床にガラス、散らばってないよね?危ないなぁ、もう。それにしても、見るも無残。お高いケープなのに、こりゃ修繕も無理だ。
 ため息を一つつくと、バスケットを適当な場所に置いた。
「さぁ姫さま! 本番、始めますよ!」
 容赦はしないぞ!気合を入れて振り返ると、姫さまがとっても嫌そうな顔をしたので少し溜飲が下がったのだった。

 ***

「なんか凄かったな。ティナ、君何をしたんだ?」
「べっつにー」
 気のない返事を姫さまが返す。
 ここは、舞踏会の会場である領主城へと向かう馬車の中。

 あの後、危ういところもありながらなんとか無事に姫さまの支度を終え、いよいよ馬車に乗り込むために船を降りたんだけど。
 兵士さん達がめっちゃ増えてたの! 数人くらいしかいなかったのになんか三十人くらいに増えてた! 馬車までの道のりの間を、皆、跪いて並んでるし!それも全員、瞳をキラキラ輝かせちゃってさ。
 たくさんの男性にキラキラした目で見られるのは怖いものがある。なにがあったん?
 馬車は二台。うちの国の馬車よりも小さいけど、純白に金の装飾が映えるまぁまぁ立派な佇まい。
 うち一台の馬車の扉を、マルコおじさんにちょっと似た若い男性が恭しく開けた。もう一台の馬車の扉を開けてるのも似た雰囲気の若い男性。
「ベアトリス王女……貴女の勇気ある行動を、我々ペルラの民は一生忘れません。我が領主にも必ずやお伝えします……!その類まれなる美しさ、身の危険を顧みぬ勇敢さ、なんと素晴らしい……!」
「あー、いいっていいって。あんなん、当たり前の事っしょ。そんな気にしないで」
 馬車のそばで頭を下げるマルコおじさんに、姫さまがひらひら手を振った。
 その姫さまの言葉を聞いて、おじさんがガバッと勢いよく頭を上げた。その頬には一筋の涙が光っている。なんでじゃ。
「なんと、なんと鷹揚で悠揚で寛容な……!」
 え、なに、韻踏んでる?
「いやマジで気にしないで。それより私らもう行くからさ。安全運転で頼むよ」
 それを聞いた馬車の扉を引いた男性。ビッと勢いよく礼をした。
「お任せください! このトニオ・デマルコ、右のコーナリングに自信がございます!」
 さらに、後ろの馬車のそばにいた男性も続く。
「わたくしエルモ・デマルコ、左のコーナリングに自信がございます!」
 …………お城までの道、どう見ても直線なんだけどな。
 デマルコってことは、この男性二人、おじさんのお子さんか。
 元気いっぱいの自己紹介を聞いた姫さま、
「そうかぁ……。うん、よろしく」
 そう言うと、さっさと馬車に乗り込んでしまった。その後に満面の笑みを浮かべたシミオン王子が乗り込む。
 何が起こったのか、事情が分からないあたしとアイリーン王女は顔を見合わせてしまった。
 ふとアイリーン王女の背後、もう一台の馬車に、アーサー様に支えられたヘイデン様がフラフラと乗り込むのが見えた。
 よく分からないままアイリーン王女が乗り込む。
「リタ、行くぞ」
 姫さまの声に促され、あたしも馬車に乗り込んだ。
「ベアトリス王女に、敬礼!!!!」
 兵士さんの一人が上げた声を合図に、兵士さん達が一糸乱れず立ち上がり敬礼をした。
 圧巻なんだか怖いんだか分からない光景をバックに、馬車は目的地へ向かって走り出した。

 そうして乗り込んだ馬車の中。
「別にじゃないだろう、アレは。何をしたんだ?」
「ふふふ、あれはねぇ。ティナが勇敢で優しくて恐れ知らずで身体能力が凄かったがゆえの結果さ!」
 姫さまの代わりにシミオン王子が朗らかに答えた。
 そんなんで分かるか。
 姫さまは話す気が無いらしく、頬杖をついて窓の外を見ている。
 アイリーン王女がシミオン王子に目線で促す。
 それを見てシミオン王子がひょいと肩をすくめた。
「実はさぁ……」

 *** 
  
 それは姫さまとヘイデン様、シミオン王子とデニス様がペルラの町観光へ出かけた時のこと。
 ペルラの町は白い石造りで丸い屋根の可愛らしい家が多く、食べ物や装飾品の屋台もたくさん出ていたんだそうだ。
 姫さまとシミオン王子は物珍しさからキョロキョロして、ヘイデン様は町民から向けられる興味津々の視線にイライラしていたそうだ。まぁ、見るからに上等な服を着て、偉いおじさんと兵士さん達に案内されていれば嫌でも目立つよね。
 そんで、おじさんに案内される場所を見て回ったりしてたんだけど。
 一つの大きな大きな建物が目に入ったんだそうだ。
 近くで見てみたいとおじさんに言えば、快く案内してくれた。
 その建物はあの港から見えた、例の他の建物とは違う感じの白い建物だった。
 美しい光沢を放つ石で作られた白い壁。それはまるで、真珠で建物を覆っているようにも見えた。
 聞けば、それはペルラ特産の『真珠石』で作られているという。
 真珠石とは、その名の通り真珠の光沢を持つ不思議な石。それなりの強度があるので、壁の装飾で使われる事が多いという。なんか眩しそうな感じがするけど、実際に見るとそんなことはないらしい。
 その建物は、マーセン大陸でメジャーな神様「創造神ゼーア」を信仰する教会なんだって。
 ちょうどその時、教会の高い高い屋根付近に嵌められていたステンドグラスを交換しているところだった。
 なんとなくぼーっと見ていると、なんとステンドグラスの交換作業をしていた人が手を滑らせて、ステンドグラスが落ちてしまった!
 ステンドグラスは屋根に当たって粉々に砕け……、その落下地点には一人の少女がいた!
 それに気づいた姫さま。その少女の下に全速力で走って行って、少女を引き寄せ自身が着ていた赤いロングケープで二人の頭を覆い隠した。 
 そのおかげで姫さまは怪我一つ無く少女を救出できたんだそうだ。

 ***

「バカな」
 開口一番アイリーン王女が感想を言った。正直あたしも同じ気持ちだ。
「降ってくるガラスに間に合うのもおかしいし、大量のガラス片を浴びてケープでガードしたから無傷でしたもおかしいだろう。引くぞ」
「引くな! 実際に間に合ったし無傷だったんだから良いだろ!」
「無傷だったから良かったけど、あたしもおかしいと思います」
「お前もか!」
 確かに姫さまは足速いし丈夫だけど、これはそんな域を超えてない?
 しかし実際に姫さまはそんな事しておいて傷一つなくピンピンしている。こわい。
 シミオン王子があはは、と笑った。
「しかしそのティナの行動のおかげで、彼らは感動して代々町の伝説として語り継ぐとまで言ってるんだよ。ティナが助けたその少女、なんとこの国の偉い人の娘さんなんだって」
「なるほどな……」
 そりゃあの態度になる訳だ。誰かは知らないけど、この国のお偉いお嬢様をお助けした訳だから。
「さすがですね、姫さま」
「ああ。偉いぞ、ティナ。アレクサンドラ陛下に良い土産話ができたじゃないか」
「うんうん。ティナは偉い! でもヘイデン殿最近高血圧気味らしいから、あんまり無茶しちゃだめだよ」
「ええい! うるさいうるさい! ほら、もう着くぞ!」
 姫さま、照れてる。
 でも姫さまのこういうところ、本当に誇りに思うよ。あまり無茶はしないでほしいけどね。