クレジット使えません、という断りを聞いて同期と居酒屋へ入った。機械の接触が夕方から悪いんです、という説明と共に。
テーブル席に着いて、メニューを覗く。
「ハイボールおかわりください」
綺麗な声が聞こえた。
カウンター奥。一人で飲んでいる女性が視界に入る。学生くらいに見える、黒髪。
「とりあえず生でいい?」
「ん、ああ」
その言葉に、意識がこちらへ戻る。
生ビールとお通しが出され、乾杯の合図と共に日々の愚痴やら世間話やらが始まる。
少しして、同期の携帯が鳴った。それに出て、顔色を変える。
「彼女。今日、記念日だったの忘れてた」
「それは」
「ごめん、俺帰るわ……」
言いながら財布から札を取り出そうとしたのを止める。
「払っとく。早く帰った方が良い」
少し躊躇い、それから手を併せた。
「悪い! ありがと! 今度返す!」
判断が早い。営業部らしいな、と笑いながらその背中を見送った。