「退院を伸ばす理由、ですか……」

淡々とした高嶺の声に、未来はナースステーションにいるのは別人なのではと思ってしまう。未来に話しかける高嶺の声はとても優しく、穏やかで聞いていて心地のよい声だ。絶対零度という言葉が相応わしく感じるような声ではない。

「その理由、教えるわけがないでしょう?それともあなたも遠くへ飛ばされたいんですか?」

あなたも、その言葉に未来は目を見開く。未来が入院している三ヶ月ほどの期間に、年配の看護師が二人ほど消えている。その二人は未来の担当看護師をしてくれていたのだが、ある日突然いなくなってしまった。

『あの二人は、家庭の事情で看護師をやめなくてはならなくなったんですよ』

高嶺はそう微笑んで言っていた。だが、実際は違ったのだ。高嶺の都合の悪い人物は全て、遠いどこかへ連れて行かれてしまったのだ。ガタガタと未来の体が震え、逃げ出してしまいたいのに、体が動かなくなってしまう。

「彼女を退院させるかは僕に決定権があります。なので、君たちは口を出さないでください。……と言いたいところですが、彼女はもう退院ですね」