「そういえば、まだ名前聞いてなかったね。聞いていい? 」
「新堂・・・真奈美です。」
「真奈美ちゃん。ゴメン真奈美さん。デスネ。」
「どっちでもいいです。呼びやすい方で。」
「お仕事帰りですよね。どんな仕事しているの? イャなら話さなくていいけど・・。」
「医療機器商社で経理やっています。入社以来ずっと。」
「えーすごい。僕パソコンも数字も嫌い。お店するのは好きなんだけど経理ダメなんだよね~」
「そうなんですか。そうは見えません。研究者みたいでしっかりしている方に見えました。経理、確定申告とかもあるからしっかりやっておかないと大変・・・ですよね。どなたかに頼んだらいいんじゃないですか? 」
「真奈美ちゃんすごいね。人を見る目ある。僕、大学で研究者してたの。毎日顕微鏡見てた。でもなんだか息詰まってしまって、辞めちゃった。それで、ある店でカクテルの勉強させてもらって、独立してお店開いて・・・。なんとか軌道に乗ったかと思ったらお店の入っていたビルが耐震で改装になっちゃって、追い出された。それでここに引っ越してきたわけ。あの、話し戻すけど・・・真奈美ちゃん、経理手伝ってくれない? 」
真奈美はあまりにも唐突な話に目を丸くした。
「えー無理ですよ。会社副業禁止だし・・・」
「今日会ったばっかりなのに遠慮なさすぎだよね。でも、どうにかなんないかな。え~と・・・ウーン・・・そうだな・・・例えばさ、週に1回は来てもらって、経理処理してもらう代わりに、真奈美ちゃんの飲食代タダっていうのどう? 虫が良すぎる? 毎日来てもタダでいいよ~」
(このマスターいい人そうだし、相当年上だし・・・襲われもしない? うーん・・・魅力的な話! このまま家に閉じこもっていてもダメだから、冒険しちゃおうかな。ここは会社からも遠いし・・・多分ばれない、それに・・・)
「本当に私でいいんですか? マスター私の経理の実力も知らないし、私悪者だったりして・・・」
「アハハ・・・僕もこんな仕事しているからかもしれないけど、人を見る目はあるんだよね~。真奈美ちゃんはまじめで、優しくて、しっかりした女性。大丈夫!」
「かいかぶりすぎです。」