「看板入れてくる。そしたら送るから待ってて。」
「はい。」
マスターは帰る準備を済ませて店の鍵を閉めた。
マスターは真奈美を家まで送りがてら話を始めた。
「真奈美ちゃんにはすっかり迷惑かけてしまったね。」
「そんなことないですよ。私何もしていません。」
「ううん。すっかり話聞いてもらっちゃったし、今日も変なとこ見せちゃった。」
「綺麗な人ですね。」
「そうだな。結婚するときも何でお前が・・・ってみんなにからかわれたよ。」
「マスター、本当はまだ好きなんじゃないですか?」
「どうだろう。そうかもしれない。でももう昔には戻れないから・・・」
「次の扉ですね。」
「そうだね。俺も次の扉開けないとな。」
「誰もが寂しいんだなって思いました。なんだか失恋するのは自分だけで、寂しいのは自分だけのように思っていました。」
「多分、みんな寂しさや辛さを抱えているよ。バーに来て飲んでいる人みんなそう。ひとりで飲んで解決している人もいるし、僕に話すことで気が楽になって帰っていく人もいる。バーってそんなところ。それが僕はいいと思っている。」
「マスターのおかげで私も救われました。真柴さんも救われたって言っていました。他の人たちも口には出さないけどみんなそう思っていますよ。マスター素敵です。」
「ありがとう。」
「マスターもまた恋をしてください。」
「真奈美ちゃんもだよ。怖がっちゃダメ。失敗したっていいんだから。」
「そうですね。マスターまた紹介してくださいね。」
「真奈美ちゃん理想高いからな~」
「えーそうですか? 普通じゃないですか?」
「ハハハ・・・」
いつものマスターの笑い声だった。
マスターは真奈美のことが大好きだった。素直で真面目で反応が可愛くて、何事にも一生懸命で、可愛くて可愛くて仕方なかった。でも20歳以上も年下だし、真奈美に手を出したらこの幸せな時間が無くなると思うから出来ない。だから、その想いは封印すると決めていた。その扉だけは開けられなかった。