いつのまにか、もうすく私の誕生日。ここに来るようになって1年が経つ・・・

 誕生日の日、マスターは私の好きなチーズやコッパなどと、お酒のきいたデザートを作ってお祝いをしてくれた。気持ちがうれしかった。
 でも相変わらず私の心は晴れない。


「こんばんは! カウンターいいですか? 」
男性は少し高揚したような顔でやってきた。私からは遠いカウンター席に彼は座った。
 話し声はなんとか聞こえる距離。私はパソコンを見ながら、なんとなく聞き耳を立てた。
「岸君、今日はひとり~? 待ち合わせ? 」
いつも彼女と来ているみたいだ。
「実は、今彼女を振ってきました。」
「・・・けっこう長かったよね。」
マスターはグラスを拭きながら話している。
「でも1年半かな。女性にとっては長いのかな? 段々と先のこと要求されるでしょこれから。だからいろいろ僕も考えて、ずっと一緒にいるのが彼女でいいのかって・・・結論は、違うって思った。彼女とは初めは楽しかったんだけど、徐々に楽しくなくなった。一緒にいる意味を感じない。殆ど僕の言いなり、主張しないんだよね彼女。それに食べ物の好みが違いすぎる。だから、僕から別れを告げた。彼女は初めて僕の前で声を荒立てたよ。他に好きな人が出来たのかって・・・そうじゃないと言ったけど、信じていないだろうな。ホントにそうじゃないんだけど。でももう別れなければいけないと思ったから、別れを告げたんだ。」
「そっかー、つらいけど、別れるなら早い方が良いよね。」

「はー、なんかどっと疲れた。」
岸はカウンターに突っ伏した。
「何にする? 少し甘い物にする? 」
「そうですね・・・元気出すために『マタドール』で。」