私にとって日常は普通に訪れて、通り過ぎてゆくものだと錯覚していた、かもしれない。


 そう、これはお伽話でもなんでもなかった。



 花弁ひとつ、気づけなかった。



 帰り際空を見上げて、誰かが、何かを言っていたような気がする。それは喜々とした口調だったかもしれないし沈んだ口調だったかもしれない。




 「月無くん、いつもどんな本読むんだろう? 明日聞いてみようかな。それ読んだら私も賢くなれそうだもん」



 半分本気で冗談だ。髪を揺らしながら門から駆けていく、明日への楽しみを隠しきれずに。

 

 いつも通りの日常が来るのだとそう、信じていた。