ここは年中温暖な気候で、雪なんてただの一度も見たことがない。そのせいか憧れや美しい幻想を抱いている人が多い。


 
 ただし――月無くんを除いては。 



 「戸締まりよろしく。俺用事があるから」


 「あ……うん、了解」


 月無くんのイメージは“真面目”、“本が好き”、“クール”、“現実主義”――あとはすべて霧がかっている。幻想の人だ。


 「今日璃珠と電話する約束してたんだっけ、はやく帰らなきゃ。課題も片付けなきゃなあ」


 慌てて帰り支度をし、図書室の扉の鍵をかける。そんな中でもふと思う。――月無くんは無駄がないんだろうなとか、課題が終わってないっていうのも縁遠いイメージだ。


 明日もきっと晴れで、月無くんとまたいつものように図書室で図書員の仕事をするのだろうと思っていた。