浴衣を着ていていつもより自由に体を動かしにくいっていうこともあって、私はなされるがままに後ろにバランスを崩した。
 ぽす、と何かが私の体を受け止める。
 見上げると、そこには不機嫌そうな魁吏くんのお顔が。
 突然のことに、私の頭の中は「?」で埋め尽くされる。
 「か、魁吏くん?」
 「・・・・・・近え」
 少し晶くんを睨みつけながら、魁吏くんはたった一言だけ言い放つ。
 近いって、私と晶くんの距離の話?
 確かに、小声で話すためにいつもより顔の距離は近かった気もするけど・・・。
 でも、なんでそのことで魁吏くんが不機嫌になるの?
 周りが不快になるくらいの距離の近さだったとか?
 でも、他の三人は特に嫌そうな顔はしていない。
 やっぱり、私の頭の中の「?」は消えない。
 というか、その・・・私には、さっきの晶くんとの距離よりも今の私と魁吏くんの距離のほうが何十倍も近く思えるんですけど・・・。
 意識してしまうと、一気に顔が熱くなってしまう。
 以前までとは違って、今は魁吏くんに対して明確な『好き』という感情を持っているから、余計に。
 心臓の鼓動もどんどん早くなって、暴れてる。
 これじゃ、魁吏くんにドキドキしてるのバレちゃうよ・・・。
 視界の端にはニヤニヤしているのが半分、やれやれと呆れているのが半分の里穂がうつる。
 こころなしか、目の前に立っている晶くんも少し魁吏くんの行動に呆れている気がする。
 「ごめんごめん」
 「・・・・・・」
 晶くんが苦笑したまま軽く謝ると、やっと魁吏くんは私の体を解放してくれた。
 し、死ぬかと思った・・・ドキドキしすぎて。
 顔に集まった熱は、そう簡単には冷めてくれない。
 もしかしたら、そこらじゅうにあるちょうちんよりも顔が赤くなってるかも。
 「じゃあ、さっそく屋台見て回ろっか!何か気になった屋台とかある?」
 「あ、私、あそこの焼きそば食べたいです・・・!」
 「オッケー」
 わざと話を切り替えてくれた里穂と椿ちゃんの言葉をきっかけに、私たちはまず屋台を見て回ることになった。


 「はい、お釣りの200円ね!熱いから、気をつけて!」
 「ありがとうございます」
 景気のいい屋台の店主から、お釣りの小銭とたこ焼きの入ったパックを受け取って列から少し離れたところに待っていたみんなのところに戻る。
 みんな、屋台で買った好きな食べ物を持って私がたこ焼きを買い終わるのを待っててくれていた。