みんな、花火が楽しみなんだろうな。
 人混みに流されたりして里穂と椿ちゃんとはぐれることのないよう、注意しながら男性陣と待ち合わせしている場所に向かう。
 日が傾いて空はオレンジ色、薄紫色、藍色ときれいにグラデーションになっている。
 あたりも薄暗いけど、至るところに飾られているちょうちんの灯りであまりそんな感じはしない。
 屋台も所狭しと並んでいて、ソースなどの食欲を刺激する匂いが鼻をくすぐった。
 お財布も持ってるし、あとで色々買いに来たいな。
 何を買おうか。
 焼きそばやたこ焼きといったおかず系も外せないし、クレープ屋綿あめ、かき氷などのデザート系も食べたい。
 食べ物を売っている屋台だけじゃなくて、射的や金魚すくいのようなゲームの屋台もある。
 ううむ、どうしてくれようか。
 「あ、いたいた!諒太〜!」
 人混みから少し離れたところに彼氏の諒太さんを見つけた里穂はぶんぶん手を振りながら、猛アピール。
 名前を呼ばれて里穂のアピールに気がついた諒太さんは、嬉しそうに目を細めたあと私たちを手招きした。
 「諒太、ごめんね。待った?」
 「いや、全然。俺らも丁度来たところ」
 短髪黒髪の爽やかイケメン男子といった風貌の諒太さんは、くいくいっと親指で後ろに立っていた晶くんと魁吏くんのことを示した。
 魁吏くんも晶くんも諒太さんも、全員黒や紺色の暗めの色の浴衣を着ている。
 シンプルな浴衣だからこそ、素材の良さを引き立てている。
 でも、なんだか意外だな。
 晶くんや諒太さんならともかく、魁吏くんが浴衣を着ているだなんて。
 魁吏くんのことだから、『面倒くせえ』とかいって浴衣を着るのを嫌がりそうだと思ってた。
 魁吏くんの非の打ち所がないほど似合ってる浴衣姿が見れて、私としては嬉しい限りなんだけど。
 「絢ちゃん」
 「晶くん、どうしたの?」
 「あの子は、誰?」
 そういって晶くんは椿ちゃんの方をそっと人差し指で指した。
 晶くんは、女の子が椿ちゃんだとは気づいてない。
 まあ、無理もないよね。
 いくら記憶力がよくて人の名前と顔を覚えるのが得意な晶くんでも、前髪で隠れていた素顔を見て誰かを当てるのは難しいだろう。
 「椿ちゃんだよ。前話した子」
 「あの子が、十朱さん・・・?」
 「うん」
 「そっか、ありがとう」
 「どういたしまして・・・って、わ!?」
 晶くんがお礼を言ってくれて、それに返事したのとほぼ同時くらいに後ろから誰かに体を引っ張られる。