椿ちゃんの了承を得て、里穂は浴衣に切った髪が落ちないよう細心の注意をはらいながら美容師顔負けの手付きで前髪を切っていく。
 そういえば、確か私も里穂も椿ちゃんの素顔を見たことがないよね。
 いつも、その長い前髪に隠れてしまっていたから。
 ある意味、初対面だ。
 どんな顔なんだろう?
 少しずつ、真っ黒な前髪が落ちていって徐々に顔が見え始める。
 そして、里穂による椿ちゃんの散髪が終わった頃現れたのは・・・。
 「え・・・・・・」
 ものすごい、美少女だった。
 例えるなら、精巧(せいこう)緻密(ちみつ)に計算され尽くして作られたようなお人形。
 里穂とはまた違った、“和”の凛とした澄んで洗練された空気を身にまとった美少女。
 そんな椿ちゃんが浴衣を着ているもんだから、お互いの魅力を最大限に活かし合って完成された一つの芸術作品みたくなっている。
 現れた目は、瞳が大きく濡れたような黒色をしている。
 肌荒れを知らない肌の白と、サラサラな髪や瞳の黒のコントラストが美しい。
 「・・・・・・?あ、あの、そんなに変、でしょうか?」
 「ううん!変じゃない!全然変じゃない!というか、可愛い!」
 「想像以上ね・・・。可愛いじゃない」
 本日何回目かの硬直状態に陥って一言も話さない私たちの反応を不安に思ったのか、おずおずと椿ちゃんが質問する。
 もちろん、悪い意味のショックなわけないので全力で否定。
 急に褒められたから、こそばゆかったのか椿ちゃんは少し頬を赤色に染めながらはにかんだ。
 その笑顔もこの世のものとは思えないくらい可愛くて、もし私の恋愛対象が女の子だったら一瞬で惚れていたと思う。
 「はい、じゃあちゃっちゃとヘアセット終わらしちゃお」
 あまりの素材の良さにさらに張り切った様子の里穂は再び椿ちゃんを鏡台の前に座らせ、さっきよりも速いスペードで椿ちゃんの綺麗な髪の毛をセットしていく。
 椿ちゃんのセットが終わると、もちろん里穂自身のヘアセットも行って。
 三人でおそろいの花飾りをつけた。
 一通り用意が終了した頃には、時計は5時を少し過ぎた時刻を示していた。
 もうそろそろ、行かないと約束の時間に遅れちゃう。
 持ち物等の最終確認を行っていると、後ろからちょんちょんと肩を叩かれた。
 振り向くと、里穂と椿ちゃんが並んで立っている。
 「二人とも、どうかしたの?」