「・・・・・・大きい」
 「うん、大きすぎるね」
 私は今、里穂と一緒にジリジリと照りつける太陽の下固まったまま突っ立っている。
 あまりの大きさに呆気にとられたまま里穂がインターホンを押した。
 すぐに椿ちゃんの『今出ます』という機械を通して少しくぐもった声が聞こえてくる。
 今日は、いよいよ待ちに待った花火大会当日。
 夜の6時に神社に現地集合する予定になっている。
 そんな中、なんで私と里穂が昼間から暑い外にいるのかというと、私が椿ちゃんに浴衣を借りるためだ。
 ついでに、着付けもしてもらう。
 今日は里穂の提案でお祭りに浴衣を着ていくことになったんだけど、生憎私が自分の浴衣を持っていなかった。
 そこで、浴衣を複数着持っている椿ちゃんに貸してもらうことに。
 で、今に至るわけだけど・・・。
 「お待たせしてごめんなさい、すぐに上がってください」
 「お、お邪魔します・・・」
 椿ちゃんが出てきてくれて、中に招いてくれた。
 恐る恐る、門をくぐって椿ちゃんの後ろをついていく。
 基本明るい里穂も、少しだけ緊張しているみたいだ。
 「椿ちゃん、お家、大きいね・・・」
 椿ちゃんの家は、和風の豪邸だった。
 『お屋敷』という言葉が本当に似合うくらいの。
 門だってあるし、広いお庭もある。
 そのお庭も、お寺とかお城とかにある日本庭園みたいな感じ。
 ・・・椿ちゃん、前々から上品だと思っていたけど本物の良い家柄の人だったんじゃ・・・。
 椿ちゃんについて家の中に入ると、冷房がきいていて外よりも冷たい空気が頬を撫でた。
 「私の部屋はこっちです」
 「あ、うん・・・」
 呆然としながら私も里穂もただ椿ちゃんについていくしかない。
 長い廊下を歩いて、角を曲がったところで向こう側から着物を来た女性が歩いてきていることに気づいた。
 あの人は、もしかして・・・。
 「お母さん」
 「あら椿、その可愛らしい子たちがこの間言ってたお友達?」
 「はい。絢花ちゃんと里穂ちゃんです」
 「お邪魔しています」
 だよね、やっぱりお母さんだよね。
 椿ちゃんと同じ長い髪を、綺麗に結わえている。
 あのヘアセット、大変そうだな・・・。
 ピシッと立っているその姿からは、気品を感じる。
 思わず私と里穂の背筋も伸びた。
 「絢花さん、里穂さん。椿と仲良くしてくれてありがとうね。この子、昔から引っ込み思案で仲のいい友達もできなくて・・・。家に友人を招くなんてお二人が初めてなの」
 「ちょっとお母さん!?」
 少し椿ちゃんが顔を赤らめながらお母さんの話を止めた。