女の先輩は、悔しそうに目に涙を浮かべた。
 よろよろと立ち上がって、また必死に走り始める。
 だが、そのスピードはさっきよりも断然落ちている。
 頑張れ、頑張れ。
 心の中で、必死にエールを送る。
 他のチームの選手は、もうすぐ第十一走者のところに到着しそうだった。
 結局、開いた大差を覆せずビリのまま彼女は晶くんにバトンを渡す。
 「晶くん、残念・・・」
 「こんなの、可哀想だよね・・・」
 そんな声も聞こえてくるけど、私はいつの間にか無意識のうちに胸の前でパチパチと小さく拍手していた。
 名前も知らない人だけど、ただその人の健闘をたたえたかったんだ。
 それに・・・大丈夫、まだ負けてない。
 陸上部顔負けの足の速さで、晶くんはぐんぐん前の選手に追いついていく。
 一人抜かして、また一人を抜かして。
 もう、晶くんを憐れむ声は聞こえなくなっていた。
 「真白ーー!!頑張れーーー!!」
 「晶くん、かっこいい!」
 「頑張ってーーー!」
 赤組のメンバーと晶くんのファンの女の子全員が歓声をあげるものだから、すごい声量だ。
 あっという間に、最下位から三位まで躍り出た。
 それでも、さすがに全員を追い抜かすことは不可能で。
 トップとは大きな差が開いている。
 そんな中、先程から全校を騒がせている男、魁吏くんに晶くんの手からバトンが渡された。
 当然、アンカーということもあり観客の盛り上がりは最高潮。
 歓声を背中に受けて、風のように駆けた魁吏くんは二位の選手を抜かしてしまった。
 一位との距離も、だんだん近くなっていってる・・・が、それでも逆転することは厳しそうだ。
 私の目の前を、一位の選手と魁吏くんが通る。
 不意に、走ってくる魁吏くんと目があった。
 一瞬だったけど、魁吏くんの真剣な表情がよく見える。
 それを見てしまったから、私は走り去っていく魁吏くんの背中にこう声をかけられずにはいられなかった。
 「魁吏くん!!!頑張って!!!」
 これまで生きてきた中で、私はきっと一番大きな声を出したと思う。
 次の瞬間、魁吏くんは一位の選手を追い抜いてなんとトップにまで昇りつめたのだ。
 応援、届いたのかな・・・?
 ・・・きっと、いや絶対届いてる。
 そのまま、一位のまま魁吏くんはゴールした。
 わああぁぁああっ、とまさかの逆転劇にみんな大盛り上がり。
 すごい、すごいよ魁吏くん!