魁吏くんの声はものすごく低い。
 ちょっとだけ怖くて、私も彼女たちも肩をびくりと跳ねさせた。
 先輩たちは、完全に勢いを失ってしまった。
 「・・・なんで、なんでこの子なの!?私たちの何がいけないの!?ずっと、ずっと魁吏を好きなのは私たちなのに・・・!」
 やっと絞り出した声は、それはそれは悲痛なもので。
 先輩の言葉が、何故か私の胸をチクリと刺す。
 「・・・んなもん、知るかよ。俺がお前らを選ばねぇのはこういうことを平気でするからじゃねぇの?」
 こういうこと、っていうのは呼び出しのことであってるよね?
 魁吏くんの言葉の一つ一つに、怒気が孕まれ(はらまれ)ているのは一目瞭然(いちもくりょうぜん)だった。
 どうして、魁吏くんはここまで怒ってるの・・・?
 魁吏くんが指摘したことは、彼女たちにも思うところがあったのかそのまま押し黙ってしまう。
 彼女たちのうちの一人は、あまりの魁吏くんの剣幕にその場に崩れ落ちてしまっていた。
 全員の目が、涙で潤んでいく。
 「・・・チッ。なんでお前らが泣くんだよ」
 「ごめ、ごめんなさい・・・」
 「そんな、魁吏を怒らせるつもりはなくて・・・」
 うっとおしそうに魁吏くんが声を漏らすと、彼女たちは震える声で謝罪を始める。
 その姿は、見ていてどこか憐れ(あわれ)だった。
 魁吏くんは、もう一度舌打ちをしたあと私の手を掴んでその場から立ち去る。
 手を繋いでいるわけだから、当然私もそこからいなくなる。
 背後からは、先輩たちの泣き声が聞こえてきていた。


 「・・・・・・」
 「・・・・・・」
 ・・・な、なんなんだこの空間は。
 なぜ、私と魁吏くんは向き合ったままお互いに沈黙しているのだろうか。
 魁吏くんは、私を人気の少ない廊下まで連れてきていた。
 なんだか、ここも呼び出しにはうってつけの場所だな、なんて考える。
 それほど、周りに人の気配はなかった。
 「あ、あの、魁吏くん・・・?」
 「・・・なんでお前はまた、呼び出されてんだよ」
 また?
 またってことは、魁吏くん、私が以前にもおんなじ体験をしたこと知ってたんだ。
 誰から聞いたんだろう。
 まあ、誰でもいいや。
 「呼ばれて、ほいほいついていくな。いい加減に学習しろ、馬鹿」
 ぐぬぬ、正論すぎて反論する余地が全くないぞ。
 でも、だって、断れなかったんだもん・・・。