「・・・何か、料理のリクエストとかあったり、する?」
 おかしな態度をとってせめてもの償いとして、できる範囲で魁吏くんの食べたいものを作ろう。
 壊れたロボットみたいにぎこちない動きで振り向いてそう尋ねた(たずねた)
 しばらく黙ってから、魁吏くんは低い声で「・・・オムライス」と呟いた。
 オムライスなら、冷蔵庫に入ってる食材でもできたはず・・・。
 オムライスって、なんだか可愛いな。
 笑顔で了承して私は早速料理に取りかかった。


 そしてやってきた今日、体育祭。
 チーム分けは、例年通り各クラスで分けられている。
 例えば、3年A組・2年A組・1年A組で一チーム、3年B組・2年B組・1年B組で一チーム、みたいな。
 みんな、クラスごとに指定された色のはちまきを頭に巻いている。
 私たちA組は、赤色のはちまき。
 結局、あの魁吏くんと二人だった日に大きな出来事はなかった。
 そりゃそうだよ、急接近するのが頻繁(ひんぱん)にあったら私の心臓が持たない。
 ・・・でも、なんだか。
 安心したような、でもちょっと物足りないような複雑な感情が胸の中で渦巻く。
 ・・・ざ、残念じゃないし。
 この間のような少女漫画みたいな展開を期待していたわけでは断じてないんだから!
 頭をぶんぶん振って、(よこしま)なわけのわからない雑念を頭から追い出す。
 もう、五月の下旬ということもあってすっかり夏の気候になっている。
 全校生徒が、グラウンドに一堂に会しているもんだから、人口密度はものすごく高い。
 さんさんと輝いているもう夏の太陽の下で、全員で長い長い教頭先生と校長先生の話を聞く。
 やっと解放されたので、応援スペースの最前列に椿ちゃんと並んで立った。
 「暑いですね」
 「そうだね〜。溶けちゃいそう。椿ちゃんの出番はまだだっけ?」
 「はい。綱引きも障害物競走も、午後からの競技なので前半は応援するだけです」
 事前に配布されていたプログラムに目を通す。
 私の出場する玉入れは午前中、綱引きは午後の予定だ。
 ちなみに、晶くんの出る騎馬戦は午前中最後の競技で魁吏くんの借り物競争は騎馬戦の一つ前、そして二人とも出るチーム対抗リレーは体育祭のトリを飾る。
 時間がたっぷりあるし、いい機会だから椿ちゃんにずっと気になってたことを聞いてみようかな。
 「あのさ、椿ちゃんって校外学習のときどうして私に話しかけてくれたの?」