仕事の都合かな?
 魁吏くんのご両親って、なんかエリートっぽい仕事をしていそう。
 ただの偏見だけど。
 ・・・・・・ん?あれ?
 私、何か重大なことを見逃しているような・・・?
 今日、晶くんは帰ってこない・・・?
 え、つまりそれは・・・一日魁吏くんと二人きり・・・?
 ・・・・・・ええぇぇええ!?
 いやでも、この間のことが脳裏に浮かんでくる。
 い、いやいやいやいや。
 別に、今日はそんなこと起こるわけないし?
 魁吏くんだって、いつもどおりだし?
 でも、それでも意識はしてしまう。
 一気に、顔に熱が集まる。
 鏡がないから自分では見られないけど、きっと私の顔はりんごみたいに真っ赤になってるはずだ。
 こ、これじゃ勘違い女だよ。
 うん、大丈夫。
 落ち着け私、私ならいけるはずだ。
 ・・・・・・やっぱり無理!
 そもそも、この近い距離の二人きりの空間っていうものにもう耐えられそうにない!
 私の胸の内を知る(よし)もない魁吏くんは、ソファの上でのんきにあくびをしている。
 あなたのせいで、私は混乱しているんだと大きな声で言ってやりたい。
 きっと「何言ってんだ」と一蹴されるだけだから言わないけど。
 私、どうしちゃったんだろう・・・?
 なんだか、変だ。
 上手くは説明できないんだけど、とにかく変だ。
 今まで、こんな風になったことがない。
 ふと、魁吏くんと目が合う。
 「・・・・・・!」
 「は?」
 「・・・・・・」
 バッと、勢いよく思いっきり目をそらしてしまった。
 運動音痴(おんち)の私の体のどこに、そんな反射神経が眠っていたのだろうか。
 魁吏くんの、その一文字が心にグサッと刺さる。
 そうだよね、「は?」ってなるよね・・・。
 私でも、目があっただけなのにこんな反応されたら少なからずそう思ってしまう。
 だって、それくらい意味のわからない行動なんだもん。
 「あ、あの、ご飯、作るね!」
 とりあえず、魁吏くんの(そば)から離れようと晩ご飯の仕度(したく)を口実に立ち上がる。
 私が変になってる原因が魁吏くんだっていうのは、唯一わかってるから。
 一旦、原因から距離をおいてみよう。
 そしたら、この変な胸のドキドキも少しは収まるかもしれない。
 うっ、魁吏くんの視線が痛いほど突き刺さる。
 魁吏くんから見ても、私の挙動はおかしくなってるんだろうな。