「ちょっとその女子の名前教えてくれる?私が絢花の代わりに(ぼく)さ・・・殴ってくるから」
 「ええ!?」
 里穂さん、今撲殺(ぼくさつ)って言いかけましたよね!?
 いくらなんでも、事が大きすぎるよ!
 それに、里穂が警察に捕まるかもしれないし!
 「ちょっと里穂、そんな物騒なこと言わないで!」
 「だって、だって私の親友にそんな『地味』とか、『空気が汚れる』とか言われて黙ってるわけには行かないでしょ!?」
 里穂がガタッと立ち上がる。
 里穂は今まで見たこともないくらいの形相で怒っている。
 本気で止めないと、金属バットか釘バットまで持ち出してきそうな勢いだ。
 金属バットも、釘バットも殴られた相手はきっと無事じゃいられない。
 「私は平気だから!里穂、ちょっと落ち着いて!」
 「絢花はそんな風に言われて悔しいとか、悲しいとかは思わないの!?」
 「でも、私が地味なのは事実だから・・・」
 私がそこまで言うと、里穂は「はぁぁ〜・・・」とため息をついてやっと里穂は座ってくれた。
 怖かった・・・。
 怒られたのは私じゃないんだけど、それでも寿命が何年か縮んだような気分。
 「まあ、絢花がそこまで言うなら・・・」
 「良かった・・・」
 里穂はなおもブツブツ言い続けているけど、少なくとも傷害沙汰(しょうがいざた)にはならなさそうだ。
 ホッと胸をなでおろす私に、「それと」と里穂は話を続けた。
 「絢花、アンタは可愛いんだからもっと自分に自身を持ちなさい」
 「またまた、私が可愛いと呼ばれるにふさわしい顔なわけないじゃん・・・」
 可愛いっていうのは、里穂みたいな女の子のことだよ。
 里穂がお世辞言うなんて珍しいなあ。
 里穂は、基本思っていないことは口にはしないタイプ。
 そんな里穂にさえお世辞を言わせるくらいなんだから、私の顔って相当酷いに分類されるんだろうな・・・。
 ちょっと落ち込んだ私の顔を見て、里穂は「はぁ、これは本当にわかってないって顔ね・・・。この鈍感無自覚が」と呟いて再度ため息をついたのは私が知らないお話。