いた。
 魁吏くん、いた。
 ソファに寝そべって、魁吏くんは目をつむっている。
 お昼寝中かな?
 起こさないようにしなきゃ。
 音をたてないように細心の注意をはらって、そーっとカバンをカーペットの上に置く。
 そのまま、なんとなくその場に座った。
 魁吏くん、ここで寝るなんて相当眠たかったんだろうな。
 しかも、制服のままだし。
 しわになっちゃうから、制服は脱いでおいてほしいんだけど・・・。
 まあ、仕方ないか。
 それにしても、寝顔ものすごく綺麗だなぁ。
 ファンの子たちが見たら、鼻血をふいて卒倒するのかな。
 不機嫌そうな表情をしていないぶん、いつもより少しだけ幼い顔に見える。
 この穏やかな寝顔をカメラで盗撮して売ったら、一体どれだけ儲け(もうけ)られるんだろう。
 なにげに私、魁吏くんの寝顔って初めて見る。
 それは、本当にこの世のものかと疑うくらいの美しい顔だった。
 本当に同じ日本人、同じ人間なのか不安になる。
 それに、今日の話を聞いてるかぎり運動ができて足も速いみたいだし。
 顔もいい、運動もできて人気もあるなんて、神様は不公平だ。
 天は二物を与えず、っていう言葉はとんだ嘘。
 口の悪さはともかく、こんな見目麗しい(うるわしい)王子様の隣には可愛い絶世の美少女がお似合いなんだろうな。
 まじまじとその綺麗なお顔に見入っていると、不意に魁吏くんが薄く目を開いた。
 「あ、お、おはよう・・・」
 「・・・・・・はよ」
 近くに座ってたことについて何か文句言われたりたりするかと思ったけど、意外とそんなことはなく、挨拶が返ってくる。
 目をこすりながら、魁吏くんはゆっくりと上半身を起こす。
 「着替えてから寝てね、制服そのままだとしわになっちゃうから」
 「・・・・・・」
 「晶くんは?まだ帰ってきてないの?」
 「・・・今日は、晶は帰ってこない」
 「え?」
 今日は、晶は帰ってこない・・・?
 それはまた、どうして。
 「あいつ、家に帰ってるから。家族に一緒に飯食おうって誘われたらしい」
 「ああ、なるほど」
 まだ眠たそうな魁吏くんが、私に説明してくれる。
 晶くんの家族ってどんな人なんだろう?
 きっと、晶くんと同じで美人な人ばっかりなんだろうな。
 「魁吏くんは、家族に会ったりしないの?」
 「・・・俺の両親、今海外にいるから」
 「へぇ〜、そうなんだ」