・・・なんで、ここで晶くんと郁弥くんが話に出てくるの?
 郁弥くんはまだわかる、さっきまで話してたし。
 でも、晶くんの名前は会話の中に全然出ていなかった。
 どうして、その二人を?
 なんだか、さっきから黒江さんの言動の真意がいまいちわからない。
 ずっと、私の頭の中では「なんで」と「どうして」のクエスチョンマークが飛び回っている。
 晶くんと郁弥くんの共通点ってなんなんだろう・・・。
 二人とも優しいとか?
 でも、それが今の話に関係する・・・?
 黒江さん・・・晶くん・・・郁弥くん・・・黒江さん・・・。
 ・・・・・・あ。
 首をかしげて、思いついたことをそのまま口にしてみる。
 「・・・魁吏くん?」
 「・・・・・・!」
 魁吏、で名前あってるよね?
 少しだけ、黒江さんの肩が跳ねる。
 手の力も、さっきより微妙にだけど弱くなった。
 相変わらず距離はバグったままだけど。
 正解だったのかな?
 「魁吏くん?」
 下から覗き込むような形で、もう一度名前を呼んでみる。
 ちょっとだけ顔が赤くなった黒江さんは、一回だけ小さく舌打ちをした後離れていった。
 よかった・・・本当に心臓に悪かった・・・。
 腕も解放される。
 掴まれた箇所はまだ熱を持っていて、少し赤くもなっている。
 そしてそのまま、何も言わずに二階にあがっていってしまった。
 一方の私はというと、上手く足腰に力が入らずにその場にずるずると座り込む。
 ・・・本当に、なんだったの・・・?
 魁吏くん呼びしてほしかったってこと・・・?
 ええ・・・?
 これからは私、黒江さんのこと魁吏くんって呼んだらいいってこと?
 今さっき起こったことの処理に、脳が追い付いていない。
 嘘みたいに顔が熱い。
 その熱がひくのに、しばらく時間を要しそうだ。

 その日の夜の食卓はどこかぎこちなくて。
 ただ黙々と食べすすめる私と黒江さん、ううん、魁吏くんを見て晶くんが呆れたように笑っていた。


 「・・・ってことがあったんだけど、里穂どう思う?」
 「どう思うって、どういうことよ」
 大型連休の最後の日、私は再び里穂とあのショッピングモールで会っていた。
 眼鏡じゃなくてコンタクトに変えて、もちろんこの前里穂が選んでくれた服を着て。
 今日は、服を見るんじゃなくて一番最初にショッピングモール内のヘアサロンに連れていかれた。