そして男の身体が少しだけ浮いて、その後膝から崩れ落ちて。
 いや、待って。
 当たり前のことのように言ってしまったけど、そこがおかしい。
 どう考えてもおかしい。
 うん、何回も考えてみたけどやっぱりおかしい。
 僕や魁吏が蹴ったとしても、あんなに綺麗に敵を沈めることなんてきっとできないと思う。
 それを、絢ちゃんと上背(うわぜい)がさほど変わらない女の子がやってのけた。
 火事場の馬鹿力にしては、綺麗すぎるほどだった。
 一体あの華奢な体のどこにそれだけのパワーが眠っているのか。
 いくら考えても、謎は深まるばかり。
 「「・・・・・・」」
 僕らがボーッとしているうちに、無様にも男たちは逃げ出し絢ちゃんたちもどこかに行ってしまった。
 ・・・絢ちゃんの友達も流石というか、何というか。
 類は友を呼ぶって本当なんだなぁ。
 「どうしたの?2人とも」
 「体調、悪い?」
 「私が看病してあげよっか!?」
 女の子たちの作ったような甘くて高い声で現実に引き戻される。
 「あ、ああいや、大丈夫だよ」
 「そう?」
 「あっ。それよりも僕たち、ちょっと待ち合わせがあるんだよね。だから、今日のところは解散してくれる?」
 嘘の口実で、女の子を他のところへ行くように促す。
 終始不満そうに「ええー?」と言っていた子たちも「お願い」と頼むと、名残惜しそうな顔をしながらも納得してくれた。
 やっと、僕たちの周りから人がいなくなる。
 そのおかげか、周囲の気温が少し下がって涼しくなった気もする。
 「・・・何だったんだよ」
 「・・・さあ」
 魁吏がまた静かに呟く。
 なんとも締まりのない返事をしたはいいものの、どちらも次の言葉を探してそのまま黙り込んだ。
 ・・・そういえば。
 「魁吏さ。さっきはよくあの子が絢ちゃんだって気づいたね」
 「あ?」
 僕は魁吏の『桃瀬』を聞いて、やっとそれが絢ちゃんだと気づいたのに。
 よく、女の子に囲まれた状態のまま絢ちゃんのことがわかったよね。
 「あー・・・。・・・チッ」
 煮え切らない態度のまま、魁吏はお得意の舌打ちを一つ。
 ・・・おやおや?
 これはこれは・・・。
 憶測の域は出ないけど、なんとなく察しがついてしまった。
 本人が気づいているかどうかは知らないけど。
 「魁吏にもようやく、春が来たかぁ・・・」
 「は?何て言ったんだ?」
 「なんでもないよ」
 あの無愛想な幼馴染の変化を、僕は微笑ましく感じたのだった。