文句言うんなら、どうぞ最初からもっと可愛い女の子をナンパしてください!
 いやそれも違うけど!
 というか、本当に手を離してほしい。
 ここの道、人通りは少ないし数少ない通行人も関わらないが吉と目をそらしてそそくさと去っていく。
 誰も、助けてくれない。
 見えてるはずなのに、困ってるってわかってるはずなのに。
 「ほら、来いよっ!」
 「やめ、て・・・。離してよ・・・」
 ジワ、と自分の目尻に涙が滲んだのを感じた瞬間。
 「はぁぁっ!」
 「グハッ!」
 「お、おい!」
 ・・・・・・え?
 今、何が起こったの・・・?
 私の腕を掴んでいた人が倒れていくのが見える。
 よくわからないけど、さっき椿ちゃんの右足が綺麗に振り上げられて、その足が吸い込まれるように見事に男の顎にぶつかって?
 「やった、顎にクリーンヒットです!」
 「椿、ちゃん?」
 にっこりと、椿ちゃんが笑顔で私の方を振り返る。
 こころなしか、その笑顔はどこか怒ってるように見えた。
 「な、なんだよコイツ!」
 「おい、起きろ!」
 倒れたままの男をお仲間さんが少々乱暴にゆする。
 「私の“大切なお友達”に酷いことされて、私ちょっと怒ってるんですよね・・・。どうしますか、まだ無理矢理な拉致(らち)もどきを続けますか・・・?」
 「ひっ」
 「お、おいもう行こうぜ!」
 さっきまでの気持ち悪い笑顔は一瞬のうちに凍りついて消え、立場が一気に逆転した。
 椿ちゃんにやられた人を引きずるように、男の人達は急いで退散していく。
 一体、なんだったの・・・。
 「絢花ちゃん、大丈夫ですか!?」
 「だ、大丈夫・・・」
 「なら、良かったです」
 私の返答を聞いて、椿ちゃんは安堵(あんど)のため息をついた。
 「ごめんなさい、助けるのが遅くなってしまいました」
 「ああ・・・、さっきのやっぱり椿ちゃんがやったの?」
 「はい」
 夢でも、さっきお参りしてきた神社の神様のご加護があったわけでもないんだね。
 ホントに、私の目の前にいる椿ちゃんがやったんだね。
 「実は、お家の方針で小さい頃から空手を少し嗜んで(たしなんで)いるんです。何かあったときのために、自衛のためにと」
 「そ、そうだったんだ」
 「それに、大切な絢花ちゃんに酷いことされて黙って見ていられるほど私はお人好しじゃありません」
 さっきも椿ちゃん、私のことを“大切な友達”って言ってくれたよね。