前髪に隠れた目も、きっと優しく細められていたんだろうな。
 それに、椿ちゃんは髪も綺麗だった。
 墨で染めたような真っ黒な、腰まで伸ばされた髪。
 光にあたって、頭のてっぺん付近に天使の輪ができていた。
 それも伝えると、晶くんも「そっかぁ」と言って笑った。
 晶くんの笑顔も素敵だよね。
 優しい笑顔。
 そういえば、黒江さんってどんな風に笑うのかな?
 晶くんの笑顔は見たけど、黒江さんの笑顔はいまだに見ていない気がする。
 黒江さんの笑顔なんて、全然想像できないや。
 私と話すときはいつも不機嫌か悪態をついてくるし、黒江さんの笑顔が私に向けられることはないんだろうね。
 向けられたとしても、それはきっととっても意地悪な笑顔。
 「絢ちゃんに友達が出来てよかった。今度の校外学習もその子と行動するの?」
 「うん」
 「楽しみだね」
 「―――チッ」
 晶くんの言葉に、黒江さんの舌打ちがとんでくる。
 ・・・黒江さん、なんだか不機嫌?
 さっきも私に「キモい」とかなんとか言ってきてたし、私、気づかないうちに何か失礼なことしてたのかな・・・?
 まさか、電話の話し声が公害レベルでうるさかったとか・・・!?
 ちょっぴり不安になってくる。
 そんな私の胸の内を感じ取ったのか、晶くんが「大丈夫だよ」と落ち着いた声で言ってくれた。
 「魁吏、校外学習のことでイラついてるだけだから」
 「校外学習のことで?」
 なんでだろ?
 校外学習に腹を立てる要因が特に見つからず、首をかしげる。
 さすがに、「寺なんかに行ってもつまんねぇ」みたいな幼稚な文句じゃないだろうし・・・。
 「・・・・・・女」
 「え?」
 不意に、黒江さんがぼそりとつぶやいた。
 「校外学習なんて、女共に四六時中つきまとわれて終わりだ。うぜぇ」
 「あー・・・」
 そこまで聞いて、納得した。
 そうか、このお二方の周りではいつもある現象が起こってるんだった。
 私には、到底縁のない現象。
 「つか、晶。お前、いちいちご丁寧に女の相手してんじゃねぇよ。この人たらしが」
 「僕だってやりたくてやってるわけじゃないよ」
 「じゃあすんなよ。一回怒鳴れば、あいつらだって少しは静かになんだろ」
 「相手の性別関係なく、他人をむやみに傷つけることなんてできない」
 ・・・どっちの言い分もわかるんだよなあ。
 二人の話を傍聴しながら、そんなことを考える。
 晶くんの意見は正しいし、一人の人間として尊敬できる。