「どうかしたの?」
 「ちょっと喉乾いちゃって。水飲みに来ただけだよ」
 晶くんにそう返事しながら、ガラスのコップに水を注いだ。
 そしてコクコク、とそのまま飲み干した。
 乾いた喉に冷たい水が染みわたる。
 「絢ちゃん、なんだか今日機嫌いい?」
 さっきの鼻歌が聞こえていたのか、それとも私の顔がそれほどまでにやけていたのか晶くんにあっさりと私の機嫌の良さを見抜かれてしまった。
 もしかしたら晶くんが鋭いだけかもしれないけど。
 「うん!実はね・・・」
 「できたんだろ?新しい『オトモダチ』が」
 私の嬉々とした声は黒江さんの声にかき消されてしまった。
 図星だったことに驚いて、私は目をぱちくりとさせる。
 何で知ってるんだろう?
 里穂以外の誰にも言ってないはずなんだけどな。
 「どうして、わかったんですか?」
 「お前の電話の声、俺の部屋まで聞こえてるんだよ。どんだけデカい声で電話してんだ」
 相変わらず、黒江さんはスマホの画面に目を向けたまま喋る。
 嘘、私ったらそんなに大きい声で話してた?
 無意識だった。
 でも、仕方ないよね。
 だって、新しい友達だよ?
 あの、ぼっちの私にできたんだよ?
 奇跡としか言いようがないじゃないか。
 テンションが上がるのも許してほしい。
 そんなことを考えていたら、また緩やかに口角が上がっていくのを自分で感じた。
 「何笑ってんだよ、きめぇ」
 「んな!?キモいってなんですか!」
 最近、少し優しいからって油断してた。
 そうだ、この人はこういう人だった。
 完全に忘れてた。
 「こら、魁吏」
 すぐに晶くんが黒江さんをたしなめると、黒江さんはそれ以上何も言ってこなかった。
 「で、絢ちゃん。その新しい友達って、どんな子なの?」
 「十朱椿ちゃんって知ってる?」
 「うん、一応名前は。でも、話したことはないからどんな性格なのかはよく知らないな」
 「そうなんだ」
 椿ちゃんがどんな子、か。
 それは里穂には話さなかったな。
 また今度紹介するしいいやと思って。
 「うーん、比較的おとなしい子だったかな。あとは」
 「あとは?」
 そして、私の椿ちゃんに対する第一印象を口にする。
 「笑顔が、とても素敵な子だった。上品で、素敵な笑顔」
 本当に、見とれてしまうくらいの。
 笑顔って、人と関わっていくうえでとっても大事なコミュニケーション方法だと思う。