椿ちゃんの言葉に、私は快く頷いた。
 「うん!これからよろしくね、椿ちゃん!」

 
 いくらかはしゃいだ気持ちで帰宅して、料理や洗濯も全部済ませて。
 時計の短い針は、9の数字をさしている。
 「でね、私にも友達ができたんだよ。椿ちゃんって言うの」
 『よかったじゃない。絢花が思ってたより元気そうで安心したわ』
 自分の部屋のベッドの上に座って、里穂に報告の電話をする。
 『今度私にもその椿ちゃんって子を紹介してよ。その子の人を見る目を褒めてあげないと』
 「あはは、ありがとう」
 今までにないくらい、心が弾んでいる。
 どんだけ単純なんだよ、私の頭は。
 でも、それも仕方がない。
 だって、新しい友達なんだもん。
 私の喜びが電話越しに伝わったのか、里穂もこころなしか安心した穏やかな声色だ。
 それからしばらく雑談をして、「おやすみ」を最後に私たちは通話を終了させる。
 黄緑のメッセージアプリの友達一覧を見る。
 先ほどまで電話をしていた里穂の下に『十朱椿』という文字が連なっている。
 椿ちゃんのアイコンには、生け花の写真が使われていた。
 生け花教室とかに通ってるのかな?
 椿ちゃんお上品だったし、似合いそう。
 プッ、とスマホを切る。
 そのままスマホをギュッと抱きしめた。
 ・・・あれ?
 そういえば、どうして椿ちゃんは私に声をかけてくれたんだろう?
 今までに喋ったこと、ないはずだよね?
 うーん・・・。
 声をかけてくれた理由が全然わからない。
 思い当たる節が全くと言っていいほどない。
 ま、いっか。
 また今度椿ちゃんに直接聞いてみよう。
 スマホを置いて、ベッドから降りる。
 長い時間里穂と喋ってたし、ちょっと喉乾いちゃったな。
 下に行って、見ず飲んでこよ。
 そのまま、部屋を出る。
 ふんふふんと、呑気に鼻歌なんか歌いながら階段を下りて、共有スペースに入った。
 「あ、絢ちゃん」
 「・・・・・・」
 共有スペースでは、黒江さんと晶くんの二人ともがくつろいでた。
 おっきなソファに腰かけて、黒江さんはスマホをいじり、晶くんは何かの小説を読んでいる。
 晶くんは話しかけてくれて、黒江さんはチラッとこっちを一瞥(いちべつ)するとまたすぐにスマホに目を落とす。
 何か、ポップなBGMが聞こえてくるしきっとゲームしてるんだろう。
 黒江さんって、どんなゲームしてるのかな。
 育成ゲームやアイドルゲームなんかは全然想像できないし、やっぱりRPGとか?