みんな、自分のパートナーを探そうと立ち上がって教室内をうろうろしだす。
 チラッと黒江さんと晶くんのほうを見ると、女の子たちに絡まれる前に二人でペアを作っていた。
 なんて、他の人のことを気にしてる場合じゃない。
 私も、誰かに話しかけないと。
 ・・・誰に?
 そこまで考えて、一人で硬直する。
 私、よくよく考えたら暴行してきた人たち以外とろくに会話してないじゃん・・・。
 ぼっちだなんてレベルじゃない。
 空気だ。
 空気の、クラス委員。
 空気の、嫌がらせのために仕事押し付けられた人。
 ・・・やめよう。
 なんだか、自分がとてもみじめな存在に思えてきた。
 「あの、桃瀬さん」
 「へっ!?わ、私!?」
 後ろから肩を恐る恐る叩かれて飛び上がる勢いで驚いてしまった。
 え、私だよね?
 桃瀬って、私の名前だよね?
 聞き間違えなんかじゃないよね?
 振り返ると、前髪の長い女の子が立っていた。
 長い前髪のせいで、目が隠れているから顔はよく見えない。
 「良ければ、私とペアになってくれませんか・・・?」
 「えっ!?そんな、私でいいの?人違いとかじゃない?」
 え、だって私だよ?
 一緒になっても何の得もないような人間だよ?
 「人違いじゃないです、桃瀬さんであってます」
 「そ、そうなんだ。いいよ、なろう。というかなってください、友達にもなってください、お願いします!」
 私は頭をバッと下げて、右手を差し出した。
 しばらくの沈黙。
 あれ、私何か間違ったことしたかな?
 ああもう、友達ってどうやって作るんだっけ・・・?
 自分の社交性のなさを呪う。
 頭を下げたまま、死にかけてると頭上からクスクスと笑い声が聞こえてきた。
 「桃瀬さんって、面白い方なんですね」
 「え・・・?そんな、面白いことなんてしたかな?」
 「あっ、お気分を害したならごめんなさい」
 「う、ううん。大丈夫だよ」
 私の返事を聞いて、目の前の女の子はまた柔らかく微笑んだ。
 お上品な笑い方だなぁ。
 笑い声も、笑った時の口元も、口に添えてる手もすべての所作から育ちの良さをうかがえる。
 「あの、名前は」
 「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私の名前は十朱椿(とあけつばき)です」
 「椿ちゃんって、呼んでもいい?」
 「はいっ!」
 「私は、桃瀬絢花だよ」
 「絢花ちゃんって、お呼びしてもよろしいでしょうか」