自己紹介？
　顔をあげると、クラスの殆どの人が私のことを見ていた。
　教室にかかっているシンプルなデザインの時計を見る。
　嘘、参考書を読み始めてから30分もたってる・・・。
　その30分の間に先生が来て、自己紹介をすることになったというわけか。
　急いで立ち上がる。
　「桃瀬絢花です。これからよろしくお願いします」
　ちょっとだけ早口で、それだけ言って座る。
　「超ガリ勉じゃん」
　「ノリ悪そうだね」
　「男いなさそー」
　「参考書が彼氏とか？(笑)」
　「めっちゃ痛いやつじゃん」
　「あんな地味子が一緒のクラスとか、マジ萎えるわ―」
　周りからはクスクスという人を馬鹿にしたような笑いとともにそんな声が上がる。
　もちろん、先生に聞こえない程度に。
　それがタチ悪いんだけど・・・。
　ああ、初日から悪い意味で目立っちゃった。
　目立つ地味子って、矛盾している気がする。
　恥ずかしすぎてどうにかなっちゃいそう。
　あとね、彼氏がいないのはできないんじゃなくて作らないだけだから！
　・・・私がその気になって恋人を作ろうとしたところで彼氏ができるとも思わないけど・・・。
　恥ずかしさをやわらげようと参考書に目を向ける。
　というか、正確には向けようとした。
　後ろの方から女の子の会話が聞こえてきて私はピタリと動きを止めた。
　「地味子と一緒になるとか最悪ー」
　「言えてる！そこにいるだけで空気が汚れるって感じー？」
　「それなー」
　なんだって・・・？
　いくら地味でも、そこまで言われなきゃならないの・・・？
　空気が汚れるって・・・？
　私はバイキンか！？
　あとね、地味子どうこう言う前に3回くらい校則読み直して臭いくらいの香水つけてくるのやめなさいよ！
　どっちかというと空気を汚しているのはあなた達の方なんだけど！？
　進学校でもこういう風に見た目で人をからかったりする人はいるもんなんだな。
　「でもね〜」
　「ね〜！」
　・・・まだ続きがあるの？
　そんなに私をけなしたいわけ？
　地味は罪なの？
　そんな法律いつ作られた・・・？
　「あの二人と一緒のクラスになれるなんて！」
　「それに関してはめっちゃついてるよね、私達！」
　「もう最高！」
　「それな！」
　あの二人？
　誰のこと？
　さっき女の子たちがこの教室に集まっていたことと関係があるのかな？
　でもこの教室内にそんなこと訊ける子もいないし・・・。