「じゃあ、絢ちゃんは安静にね。無理したらダメだよ。念のため明日は学校休むこと」
 「は~い」
 なんて、間の抜けた私の返事を聞くと優しく微笑んで晶くんは部屋を出て行った。
 再び、室内は静寂につつまれる。
 晶くん、完璧すぎるほど人間ができあがってるって感じがするなぁ・・・。
 晶くんと付き合える女の子は幸せなんだろうなぁ、なんて考えがまだボーッとする頭に浮かぶ。
 そして、私はまた深い眠りについた。

 【晶side】
 パタン、とすぐ後ろで部屋の扉が閉まる音がした。
 ・・・魁吏から聞いてはいたけど、絢ちゃん苦しそうだったな。
 顔も赤く火照っていたし、こころなしかいつもより呼吸のスピードも速かった。
 己の独りよがりの善行で、一人の人間を傷つけてしまったと考えると本当に不甲斐ない。
 階段を降りると、ちょうど共有スペースから出てきた魁吏に遭遇する。
 手には、新たに濡らしたタオルが握られている。
 恐らく、これから絢ちゃんのおでこに乗せに行くのだろう。
 「・・・・・・」
 「・・・・・・」
 どちらかが言葉を発するのでもなく、僕と魁吏の間に沈黙が広がる。
 いつまでもこんな風にかたまっていてもキリがないので、魁吏の横をすり抜けて廊下を通る。
 いや、正確には通ろうとした。
 「おい」
 「ん?魁吏、どうかした?」
 魁吏が口を開いて、つられて僕も魁吏に返事をする。
 「桃瀬のアレ、見ただろ」
 アレ?
 おでこのガーゼのことか、はたまた頬に貼ってあった湿布のことか。
 あえて、魁吏の絢ちゃんの呼び方が「地味子」から「桃瀬」になっていることには触れないでおく。
 「アレ、おおかたお前がクラス委員になったからクソ女どもが勝手に嫉妬してやったんだろ?」
 「・・・多分、その予想であってるよ」
 苦々しく呟く。
 認めたくないが、僕のせいで絢ちゃんは傷ついた。
 それは、否定しようのないことだ。
 「・・・桃瀬に、謝ったのかよ」
 「あ、ああ。それはもちろん」
 否定されたけど。
 僕の何かが気に入らなかったのか、それとも魁吏自身が何か別のものにイラついていたのか。
 チッ、と魁吏の舌打ちだけが短く二人の間に響いた。
 「お前がどうするかは勝手だけど、桃瀬に害が及ぶようなことはすんなよ」
 「え?それって・・・」
 僕が続きの言葉を言う前に、魁吏は階段をのぼっていってしまった。