もしかして、心配してくれたのかな?
 いや、やっぱりそれだけはない。
 どうせ、熱を出したままにされると「迷惑だから」だろう。
 布団を、深くかぶりなおす。
 早く寝よう。
 寝たら、きっと治るから。
 そう思ったとき、下から玄関のドアの開く音が小さく聞こえてきた。
 晶くんが帰ってきたのかな?
 ・・・そういえば、なんで晶くんはクラス委員に立候補したんだろう。
 内申点が欲しかったのかな?
 でも、それなら「桃瀬さんと一緒なら」って言った意味が分からない。
 あとで、晶くんに詳しく話を聞こう。
 ―――コンコン。
 部屋の扉がノックされる音が聞こえて、反射的に扉を見る。
 「絢ちゃん、入ってもいいかな?」
 「晶くん!?ど、どうぞ!」
 急いで上半身を起こす。
 その拍子に、額からタオルがずり落ちた。
 落ちたタオルを、勉強机の上に置く。
 「ありがとう」
 すぐに、晶くんが部屋の中に入ってくる。
 晶くんの右手には水の入ったコップ、左手には薬らしきものが握られている。
 「とりあえず、これ飲んでね」
 「ありがとう」
 素直にコップを受け取って、そのまま薬を飲む。
 冷たい水が、体内に入ってくる。
 こころなしか、体の内から少しだけ熱が冷めた感じがした。
 隣を見ると、晶くんは床の上に座っていた。
 そのおかげで、いつもは晶くんの顔を見上げる形だけど、今は晶くんを見下ろしている。
 「絢ちゃん、ごめんね」
 「へっ!?な、なんで晶くんが謝るの!?」
 「おおかた、その傷は僕のことが好きな女の子にやられたんだよね?」
 その言葉で、自分がけがをしていたことを思い出した。
 おでこのガーゼにそっと触れる。
 というか、黒江さんはガーゼの上に濡れたタオルを置いたのか。
 そのせいか、ガーゼは少しだけ湿っている。
 「僕の不注意で、絢ちゃんに痛い思いをさせてしまったんだ。本当に、ごめん」
 「晶くんが謝ることじゃないよ!ほ、ほら。私が目をつけられたのは私の普段の態度のせいでもあるし」
 とにかく、何にも悪いことをしていない晶くんが謝るのはおかしい。
 きっと、晶くんと一緒にクラス委員を務める子が里穂みたいな子だったらこんなことは起こってないだろうし。
 あそこまで執拗(しつよう)に言われたのは、私があまりにも晶くんに釣り合っていないせいだし。
 私が、変に相手の逆鱗に触れるようなことを言ったせいでもある。