訝しげに、疑うような目で先生は私の顔を覗き込む。
 ・・・本当は言ってしまいたい。
 クラスの女の子たちにやられましたって、体育館裏で頬を叩かれたり水をかけられたりしましたって。
 でも言わない。
 ちっぽけでくだらない意地だけど、負けた気分になるから。
 それに、もし暴行が発覚したとして伯父さんや伯母さん、郁弥くんに連絡が行くことも避けたい。
 余計な心配はかけたくない。
 だから、言わずに私が我慢しているのが一番いい。
 もしかしたら、これ一回で女の子たちの気が済むかもしれないし。
 「・・・そう。わかったわ。何か困ったことがあったらいつでも言いなさい」
 諦めたように松尾先生は短く息を吐き出した。
 多分、先生はだいたいのことは気づいていると思う。
 原因まではわからないにしても、私が誰かに暴力を受けたことは。
 それなのに、私の意を汲んで自ら線引をしてくれた。
 今はその気遣いがただただ嬉しい。