チラリと晶くんのほうを覗き見た。
 晶くんは特に困ったような表情はしていなかった。
 むしろ、いつもどおりの落ち着いた穏やかな表情をしている。
 「はいはい、そのくらいにして。いつまでも先に進まないのはみんなも嫌でしょ?」
 パンパンとクラスメイト全員に聞こえるくらいの音で晶くんが手を叩いた。
 「わ・・・」
 すると、さっきまであんなにうるさかったのが嘘みたいに教室の中は静かになる。
 す、すごい・・・。
 きっと晶くんだからみんな静かになったんだろうな。
 私だったらこうはいかないや。
 むしろ、もっとうるさくなっている。
 それくらい晶くんはみんなに認められていて人気だってことだよね。
 今は晶くんの人気に感謝。
 「じゃあ、まずは放送委員から。誰か立候補する人いる?一クラス二人だって」
 晶くんが尋ねると、ぴったり二人の生徒が手を挙げた。
 「じゃあ、その二人で決定だね」
 はっ、私もぼーっとしている場合じゃない。
 黒板に名前を書いていかないと。
 チョークを握って・・・私はあることに気づいてかたまった。
 どうしよう、私クラスメイトの名前がわからない・・・。
 名前がわからなかったら、当然黒板に名前を書いていくことができない。
 司会進行どころか、書記の仕事までできないなんて私はなんて無能なんだ。
 「青井さんと柴田さん」
 「え?」
 「さっきの二人の名前」
 コソッと晶くんが私に二人の名前を教えてくれる。
 教えてもらった名前をカツカツと黒板に白いチョークで書いていく。
 晶くんは本当にすごいな。
 新しいクラスになってまだ間もないのに、もうクラスメイトの名前と顔が一致しているんだ。
 その後も晶くんのおかげで話し合いは大きなトラブルもなくスムーズに進んだ。
 ・・・そう、話し合いは。


 「ねえアンタ、調子に乗らないでよ?」
 「・・・・・・は?」
 ただいま、授業で1日の大半を縛られている学生にとっては貴重な昼休み。
 そんな昼休みに、私は何故か人気のない体育館裏にいる。
 ・・・何人かの女の子に囲まれて。
 俗に言う“呼び出し”だ。
 さっき一人寂しくお弁当を食べていたら、気持ち悪いくらいの猫なで声で『桃瀬さん、ちょっと来てくれるかな?』って言われたんだよね。
 しかも運の悪いことに今日は里穂は部活のミーティングが昼休みに入って、一緒にお昼ごはんを食べれていなかったんだ。