ポフ、と軽い音でベッドが私を受け止めた。
 家を出る時間、二人と別々にしたほうが良いよね。
 いっそ変装とか・・・?
 いつどこで同じ高校の生徒が見てるかわからないんだから。
 「・・・疲れる」
 一言だけ、短くそう言った。
 多分これが今の私の本心。
 シェアハウスのことは大丈夫とは言ったけど、その周りの問題が山積みすぎる。
 息をゆっくり吐き出した。
 ヴーッ、ヴーッ。
 「!」
 またスマホが震えだした。
 今度は誰なんだろう。
 首を傾げながらスマホの画面に表示されている名前を見た。
 「あ、郁弥くんだ」
 そこにあった名前は、よく知っている人物の名前だった。
 郁弥くんは、私の従兄弟。
 大学生で、とっても有名な大学の法学部に通ってるんだって。
 なんでも将来の夢は弁護士だそう。
 顔もかっこいいし、頼もしい私の自慢の従兄弟だ。
 郁弥くんも、私のことを妹のように可愛がってくれている。
 「もしもし」
 『もしもし!』
 電話に出ると少しだけ焦ったような聞き慣れた声が聞こえてきた。
 「郁弥くん、どうしたの?」
 『引越し先、シェアハウスなの!?』
 「え、ああうん、そうだけど・・・」
 まるで初耳みたいな口ぶり。
 伯父さんたちはこのこと郁弥くんに言ってないのかな?
 『大丈夫!?先に住んでた人たちとは上手くやれそう!?』
 「郁弥くん一旦落ち着いて・・・」
 面倒見が良い反面ちょっと心配性がすぎる郁弥くん。
 だからこそ、あんまり社交的とは言えない私がシェアハウスすることを心配してくれてるんだろうな。
 「他の人とは上手くやっていけるよ」
 『本当に!?無理してない!?』
 「うん、本当」
 更に声を大きくする郁弥くんを、なんとかなだめる。
 『絢花は可愛いから、心配なんだよ』
 「お世辞はいいよ、郁弥くん。ただ私がむなしくなるだけだから・・・」
 私なんかが可愛いって褒められる世界なら、他の女の子たちはみんなモデル級に可愛くなっちゃうじゃん。
 天と地がひっくり返っても、私が可愛いなんて世界線は絶対ない。
 そう、絶対に。
 『絢花はもうちょっと自覚しないと』
 「何を?」
 『・・・・・・』
 あれ?
 郁弥くん、黙っちゃった。
 「郁弥くん?」
 『・・・もういいよ。で、本当に先に住んでいた女の子たちとは仲良くできそうなの?イジワルなこと言われたりしてない?』