身長が高めの黒江さんと私じゃ、当然足の長さが違うから一歩の大きさも違う。
 黒江さんの一歩は私の一歩よりも大きくて、追いつくために少しだけ早足で歩く。
 「・・・・・・?」
 こころなしか、黒江さんの歩くスピードが遅くなった?
 まさか、私のためにスピードを落としてくれたわけじゃないよね・・・?
 「何こっち見てんだよ」
 「見てて悪かったですね」
 不思議に思って黒江さんの顔を見上げると、すぐに文句を言われた。
 「ありがとうございます・・・?」
 「あ?何がだ」
 「歩くスピードを私に合わせてくれてるのかなと・・・」
 文句を言われたばっかりだし、黒江さんの顔は見ずに前を向いたままお礼を言う。
 お礼の言葉にハテナマークがつくのは許してほしい。
 「勘違いすんな。はぐれて迷子になられても困るだけだからだよ」
 相変わらず口は悪い。
 でも、こうやって歩くスピードを私に合わせてくれているところを見ると根はそんなに悪いやつじゃないのかも・・・?
 なんてね。
 「おい、急げよ」
 「はいはい」


 「いい匂いだね〜。もうすぐできそう?」
 「うん、もうすぐできるよ」
 「じゃあ食器の用意とかしておくね。流石にそれくらいならできるから」
 買い物も無事終わり。
 今、リビングにはカレーの食欲をそそる匂いが立ち込めている。
 「あー、じゃあ黒江さん呼んできてくれる?」
 黒江さんは、買い物が終わって帰ってくるとまたすぐに自室に戻ってしまった。
 「わかった」
 晶くんはすぐに二階に上がっていった。
 今日の買い物代も、実は黒江さんが出してくれたんだよね。
 調味料とか、諸々買ったらそれなりの金額になったのに。
 私が財布を出そうとしている間に、黒江さんが先に五千円札をレジ係のお姉さんに渡していた。
 後でお金を払おうとしても黒江さんは断固として受け取らなかった。
 「地味」だの「ブス」だの言ってきたくせにサラッとそういうことはするから本当に黒江さんという人のことがよくわからない。
 良い人なのか、嫌な奴なのか。
 カレーを3つの器によそっていると、晶くんと黒江さんが二階からおりてきた。
 柔らかい笑みを浮かべている晶くんに対して、黒江さんは相変わらず無表情で感情が読めない。
 「ごめんね、何から何まで」
 「私が好きでやってることだから!」
 申し訳無さそうに眉尻を下げる晶くんに、私は胸の前で両手をブンブンと振った。