心なしか、魁吏くんの両耳はほんのり赤くなっている。
 熱でもあるのかな?
 なんだか様子がおかしいのも、体調が悪いからなんじゃ・・・。
 「まだ、部屋に戻ってなかったんだね」
 「・・・・・・ん」
 「お風呂、空いたよ」
 「・・・・・・おう」
 とてつもなくぎこちない会話をして、魁吏くんは私が今出てきたところへ入っていった。
 直後、洗面所から水を流す音が聞こえてくる。
 ・・・会話がぎこちないのは、きっとさっきの事故のせいだけじゃないよね。
 どうやったら、また前みたいになれるんだろう。
 デートをしたのが昨日だっていうことが嘘のように、私たちの間に流れる空気は居心地の悪いものになってしまっていた。
 もしこのまま、ずっと気まずいままだったら・・・。
 最悪、魁吏くんが私と付き合ったのが間違いだったって思っちゃったら・・・。
 一番言われたくない言葉を、魁吏くんの口から言われてしまったら・・・。
 そんなことを考えていると、自然と目頭が熱くなって視界もぼやけてくる。
 ああダメだな私、なんだか涙腺が言うことを聞いてくれないや。
 早く泣き止まないと、魁吏くんに面倒くさい女だって思われちゃう。
 そうだ、魁吏くんが戻ってくる前に部屋に帰ろう。
 今は、どんな顔して魁吏くんと話せばいいのかわからないから・・・。
 そのとき、タイミング悪く水の音が止まり・・・。
 「・・・・・・!」
 「もも、せ」
 魁吏くんがスタスタとこっちに戻ってきた。
 ばっちり、赤くなった目を見られてしまう。
 すぐに目をそらすけど、見られてしまった事実は覆せない。
 ちょっと困惑したような表情で、魁吏くんが私に近づいてくる。
 ・・・いやだ、来ないで。
 そして魁吏くんは、私のほうに手を伸ばして。
 「桃瀬」
 「っ、触らないで!」
 ・・・私はその手を振り払った。
 無意識に、衝動的に、それでもはっきりと・・・魁吏くんを拒絶した。
 魁吏くんのその端正な顔が、少しだけ歪む。
 その顔を見て、私の胸も微かに痛んだ。
 「おい、桃瀬」
 「呼ばないでっ、桃瀬なんて呼ばないで」
 「は、」
 「そりゃ、私はめんどくさいし鈍くさいし可愛くないしブスですよ!私と魁吏くんじゃ全然釣り合ってないよ!そんなの、私が一番知ってるよ!魁吏くんも、私なんかさっさと捨てて那々実ちゃんのところに行ったら!?那々実ちゃんも幸せになるし、魁吏くんにとってもずっといいよ!だからっ・・・これ以上私を惨めにしないで・・・」
 自分でも何言ってるんだって思う。
 支離滅裂で、ぐちゃぐちゃで、もはやもう何に対して怒っているのかはわからない。