ドアを開けて部屋の中に入ってきた魁吏と晶に、あっけなくこの情けない姿を見られてしまった。
 『那々実ちゃん・・・』
 何かを言おうとして、そして何を言ったらいいのかわからない風に晶は口を閉じた。
 魁吏も、複雑そうな顔をしている。
 私は枕に顔をうずめて、二人の顔を見ないようにした。
 『・・・・・・』
 『・・・・・・』
 『・・・・・・』
 誰も話さないまま、重い時間だけが流れていく。
 吸った空気までもが重く、内側から肺に大きな石を詰められてるみたい。
 『・・・座るね』
 晶がそれだけ言って床に座り込んだのを皮切りに、魁吏も右に倣え(ならえ)で正座した。
 そのときにズボンの後ろのポケットに入れてあったスマートフォンが邪魔だったのか、晶はスマホを取り出して横に置いた。
 スマートフォン、いいなあ・・・。
 私も持ってたら、毎日会えなくても二人と電話で喋れたのかな。
 もしかしたら、晶は毎日ユリと寝落ち電話とかしてたのかも・・・。
 魁吏も、私に言っていないだけで晶みたいに恋人作って、仲良くおしゃべりしてたりしてて・・・。
 ・・・いや、だなあ・・・。
 スマートフォンなんて、この世からなくなってしまえばいいのに。
 じとーっと晶のスマホを羨ましそうに、あるいは恨めしそうに睨む。
 『那々実ちゃん、今日はどうしたの?僕、何か悪いことしちゃったかな。もしそうだったら、なんでも遠慮なくいってほしい』
 『・・・・・・』
 晶が、おずおずと気遣うように私に視線を向ける。
 何も、してないんだよ。
 晶は、何もしてないんだよ。
 魁吏も、何もしてない。
 なんて言ったらいいのかわからなくて、私は黙り込む。
 晶も、それ以上どう追及するのか見当がつかなかったみたいで、何か口をもごもごとはしていたけどしゃべるのをやめてしまった。
 『・・・・・・』
 『・・・・・・』
 『・・・・・・』
 再び広がる沈黙。
 魁吏も、何も言わない。
 うつむいて、次の言葉を探ってる。
 しばらく続いた沈黙を破ったのは、晶のスマートフォンの通知音だった。
 お母さんとお父さんのスマホからも、よく鳴っている聞き馴染みのある音。
 反射的に、悪いことではあるけどロック画面に映し出された文字を読んでしまった。
 〈ごめんね〉
 〈別れよっか〉
 連続で、画面にはその文字が表示される。
 送ってきたのは・・・ユリ。
 晶は焦ったように、バッと乱暴にスマホをつかむと短く『・・・ちょっとごめんね』とだけ言って足早に部屋を出て行った。