なんだか気持ち悪いくらいに喉が渇いていて、水を飲みにキッチンへ行こうとドアノブに手をかけたところで私は止まった。
 部屋の外で、もっと言えば玄関のほうからママと、そしてなぜか晶と魁吏が話す声が聞こえてきたのだ。
 『二人とも見ない間に・・・・・・ね』
 『・・・・・・す』
 『おひさ・・・・・・いますか?』
 『ええ・・・に、・・・わ』
 ドアを挟んで聞き耳をたてているから、断片的な声しか拾えない。
 それでも、私にはあれが魁吏と晶の声だと確信できた。
 だって、それは私がずっと、ずっとずっと待ち焦がれていたものだから。
 二人が家に来るのなんて、いつぶりだろう?
 本当に久しぶりだ。
 一人で馬鹿みたいに舞い上がって勢いよくドアを開こうとしたところで、私は急に現実に帰ってきた。
 ・・・遊びに来たわけ、ないじゃない。
 だって、私さっきあんなことしたんだよ。
 魁吏もいるってことは、晶がさっきのこと魁吏に話したのかな。
 絶対そうだよね。
 すううって、体の中心から一気に冷えていく。
 くらくらと、眩暈(めまい)がして倒れちゃいそうだった。
 むしろ、あそこで倒れていたほうが私はこんなに拗れて(こじれて)なかったのかもしれない。
 この後に起こったことで、私はさらに救いようのないくらいに二人への執着の沼にはまっていってしまったのだから。
 ドアから急いで離れて、ベッドの上に体育座りで座り込んでピンク色のお気に入りの枕をギュッと抱きしめる。
 今は、二人には会いたくなかった。
 どんなことを言われるのか、怖かったから。
 でも、そんな私の願いを裏切って、二人のどっちかが部屋の扉をコンコンコンと三回ノックした。
 『那々実ちゃん、いる?』
 『・・・・・・』
 いつものように優しい声で、晶が一枚扉を挟んだ向こうで話しかける。
 その声の穏やかさに、涙が溢れてきちゃいそうになった。
 黙り込んで、息を殺して、できる限り気配を消して、必死にいないふり。
 お願い、帰って・・・・・・!
 二人のことは大好きだ。
 二人が、私の心の支えになってくれたから。
 大好きだけど、だからこそ今は会いたくない。
 大好きな人の大切な人にあんな態度を取っちゃって、どんな顔をしていいのかわからないから。
 『・・・・・・入るぞ』
 でも、さっきママから聞いたのか、晶も魁吏も私が部屋の中に引きこもっていることを知っていたみたいで、私の必死の努力も水の泡。