『うん、幼馴染の子』
 晶の笑顔が段々歪んで見えてくる。
 二人の和やかな話し声は遠ざかっていく。
 この世の全てが狂って見えた。
 私を中心に足場がぐにゃりといびつに曲がって、上手く立っていられない。
 『那々実、ちゃんっていうのね。私はユリで、晶くんの彼女です。よろしくね』
 『・・・・・・さい』
 『え?』
 気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。
 あなたの存在はいらないの。
 私の世界には、あなたなんて必要ない。
 私と、魁吏と、晶の三人だけで十分。
 異物なんて、邪魔者でしかないんだから。
 だって、二人が言ってくれたんだよ?
 ずっと一緒にいるから、って言ってくれたのは二人なんだよ?
 なのにどうして、アンタはそれを邪魔するの?
 酷いよ、あんまりだよ。
 魁吏も、晶も。
 あんなこと言ってくれたくせに、なんで勝手に遠くに行っちゃうの?
 なんで私を置いて行っちゃうの?
 二人がいないと、私ちゃんと立てないよ。
 歩けないよ。
 息苦しいよ。
 二人のいない世界は、真っ暗で、重くて、冷たいよ。
 『那々実ちゃん?大丈夫?もしかして体調が悪いの?』
 いかにも心配しています、といった表情でユリは私に向けて手を差し伸べてくる。
 私は、自分でも無意識のうちにその白くて可愛い手をパシッとはたいた。
 ユリはもともと大きな目をさらに大きくして、驚いたような顔をして固まった。
 『うるさい』
 『那々実ちゃん?』
 『うるさい、うるさいうるさい』
 『那々実ちゃん、どうしたの』
 晶も心配そうに眉を下げて、私に声をかける。
 それでも、私は止まらない。
 晶のほうなんか見もせず、私はユリに向かって言葉を連ねた。
 私の中のブレーキは、もはや存在していないに等しかった。
 『なんで、アンタが晶の隣で笑ってるの?そこは、私の場所でしょ?二人の隣は私の場所なの。昔から、ずっと昔からそうなの。それなのに、なんなのアンタ。図々しいし、私の場所を横取りしないでよ。ホントに、なんなのよアンタ・・・・・・!』
 私がそこまで一息で言うと、しばらく私たちの間には沈黙が広がった。
 店内には人がそこそこいて、周りのお客さんの視線で私は我に返った。
 ・・・私、今なんて言ったの?
 ユリの顔をみると、目の縁に涙をいっぱい溜めて唇を小刻みに震わして青ざめていた。
 晶も、信じられないという風に目をまん丸にしている。
 そこで、私もようやく自分が何を言ったのか理解した。