日に日に、私は家の外に出るのが億劫(おっくう)になっていった。
 朝が来てほしくなかった。
 ずっと、夜の闇の中で息を殺していたかった。
 でも、二人だけは。
 魁吏と晶だけは、ずっと変わらない態度でいてくれた。
 それだけが、あの頃の私の心のよりどころ。
 二人がいなかったら、今の私はいない。
 上手く友達の輪に入れなかったとき。
 学校でグループをつくるとき一人だけ余って先生と組む羽目になってしまったとき。
 クラスメイトが陰で私の悪口を言っていたことをしってしまったとき。
 みんなに無視されちゃったとき。
 二人は、私のことをいつも気にかけてくれていた。
 教室までいつも迎えに来てくれてくれて一緒に帰ってくれて、それがとても嬉しかった。
 何よりも心強かった。
 一度だけ、そんな二人の前で泣いたことがある。
 いつものように、部屋に遊びに来てくれた魁吏と晶は突然泣き出した私を見て驚いたような顔をして、そのあと私の気が済むまで嗚咽交じりの私の嘆きを聞いてくれた。
 魁吏は私のほうを真剣な顔で見つめて、時折小さく頷きながら。
 晶は私の背中を優しい手で撫でながら。
 ひとしきり喋り終わって私が落ち着いた後、二人は言ったんだ。
 『もう、泣かなくていいよ』
 『俺たちは、那々実の味方だから』
 『『ずっと一緒にいるから』』


 私たちの関係が徐々に変わりだしたのは、二人が中学校にあがったころ。
 小学生の私と、中学生になった二人の間にできた壁は昔の私にはあまりにも高すぎるように感じられた。
 学校が終わる時間も、行動範囲も、交友関係の在り方も。
 年齢が一つ違うだけで、二人は私よりもずっと早くに大人になった。
 一緒に遊ぶ時間もほとんどなくなった。
 三人で歩いていた通学路も、ものすごく長くなった。
 それが、二人の『ずっと一緒にいる』って言葉に依存しながら生きていた私には耐えられないほどに強かった。
 持ち前の顔の良さで、もともと小学校でも高かった二人の人気は更に高くなった。
 背中に背負ったランドセルが何十キロもの鉛の塊になった。
 そんな魁吏と晶にちょっとでも近づけるように、私は努力した。
 引っ込み思案な性格を直して、積極的にみんなに声をかけるようにした。
 それまでは疎かったオシャレだって、頑張った。
 ねえ、私、こんなに頑張ってるんだよ?
 二人がずっと一緒にいてくれるって言ったから。
 ねえ、だから、私から離れてかないでよ・・・。
 私を、置いていかないで・・・。