「それよりも那々実ちゃん。どうしてこのシェアハウスの場所を知っていたの?」
 「晶のお母さんに聞いたの。二人に会いたいから住所教えて~って。というか、今はそんなのどうでもいいでしょ」
 晶くんが話を逸らそうとするけど、それもあえなく失敗に終わってしまった。
 那々実ちゃんの口調は、強い。
 あっ、そうだ!
 那々実ちゃんは私が魁吏くんの彼女だって知ってるはずだし、彼女が彼氏の家に遊びに来てたってなんの違和感もないよね!?
 よし、嘘をつくのは心苦しいけどここはシェアハウスに遊びに来たって上手く誤魔化して・・・!
 「実はあの後、ここに遊びに・・・」
 「・・・まさか」
 「え?」
 那々実ちゃんには私の言葉なんか届いてないみたいで、何かに勘づいたのか共有スペースのキッチンに押し入ってきた。
 そのまま迷うことなくキッチンの隅に置いてある冷蔵庫まで、一直線に向かっていく。
 那々実ちゃん、何をするつもりだろう・・・?
 皆が見守る中、那々実ちゃんは勢いよく冷蔵庫を開けた。
 「な、那々実ちゃん?」
 「・・・やっぱり。絢花ちゃんさ」
 嫌な予感しかしない・・・。
 那々実ちゃんはさっきまでとは打って変わって不自然なくらいの笑みを私に向けてきた。
 『絢花ちゃんさ』・・・お願いだから、その言葉の続きを言わないで・・・。
 そんな私の願いはどこにも届くことなく、儚く散っていった。
 「ここに住んでるよね?」
 ニコッと微笑みかけられる。
 その完璧で可憐な貴族のお嬢様がするような微笑みが、今の私にとっては何よりも怖い。
 語尾につけられた疑問符は形だけで、その意味を成していない。
 「な、え、どういうこと?ここに住むって?」
 必死にとぼけるけど、嫌な汗がだらだら垂れてきて止まらない。
 自分でも、絶対に誤魔化せていないってわかる。
 その証拠に、魁吏くんは眉間にしわを寄せているし晶くんも気まずそうな顔をしている。
 どうしてバレちゃったんだろう、私、何か失言したかな?
 「嘘なんかつかなくていいよ、私全部わかったから。魁吏も晶も料理とか全然できないのに、あんなに冷蔵庫が食材でいっぱいになるわけないじゃん。絶対に二人なら、カップラーメンで済ませちゃうから」
 「あ・・・・・・」
 さっき、那々実ちゃんが冷蔵庫を開けたのはそういうことだったんだ。
 そういえば、私が来た日も晶くんは最近ずっとカップラーメン食べてるって言ってた気がする。
 ・・・本当に那々実ちゃん、二人のことなんでも知ってるんだね。
 改めてそのことを実感しちゃう。
 「それでも認めないって言うなら、部屋とか見せてよ。ここに住んでないなら、絢花ちゃんのものは何も置いてないはずだよね?」