ちょっと痛い・・・。
 晶くんは魁吏くんの肩にポン、と優しく手を置いて「魁吏」、と少しだけ悲しそうにたしなめる。
 「僕たちが口を出せる問題じゃないよ」
 「はぁ?」
 「それに魁吏、ちょっと冷静になって。話し合えるものも話し合えなくなる」
 「・・・・・・っ」
 晶くんの言うことは真っ当で、魁吏くんは言葉に詰まる。
 それでも、苦々しく顔はゆがめていた。
 魁吏くんの手の力が、少しだけ緩まる。
 こんなに取り乱している魁吏くん、初めて見たかもしれない・・・。
 「そうだ、これは俺たち家族の問題でお前には関係ない。それに、君は一体絢花のなんなんだ?」
 郁弥くんも少しだけ頭が冷えたようで、またすぐに歩き出すようなことはしない。
 冷え切った声で、魁吏くんにそう質問しただけ。
 魁吏くん、なんて答えるつもりなんだろう・・・?
 「俺は・・・、俺は桃瀬の彼氏だ」
 口開いた魁吏くんは、一旦口を閉じた後また口を開いて言葉を重ねた。
 それを聞いて郁弥くんに青天の霹靂(せいてんのへきれき)どころではない衝撃が走る。
 あまりのショックに郁弥くんは私の腕から手を離し、その隙に私は魁吏くんの隣に移動する。
 魁吏くんは、再度強い力で私の腕を握った。
 「絢花・・・本当、なのか?」
 「・・・・・・うん」
 嘘みたいだけど、信じられないかもしれないけど、全部事実だよ。
 私の頷きで、郁弥くんはまた固まる。
 郁弥くん、大丈夫かな?
 「・・・そうか」
 郁弥くんはやっと喋ったと思ったら、それだけつぶやいてフラフラとシェアハウスを出て行った。
 ようやく、私も魁吏くんも晶くんも平静を取り戻して、共有スペース内はいやに静まり返った。
 「魁吏くん、痛いよ」
 「・・・・・・悪い」
 「絢ちゃん、大丈夫?」
 「大丈夫だよ」
 腕が解放される。
 魁吏くんと郁弥くんに握られていたところが、ジンジンと熱い。
 『絢花がいるべき場所は、こんなところじゃない』、か・・・。
 確かに、このシェアハウスは冷静に考えるとおかしいよね。
 「・・・桃瀬」
 「魁吏くん、どうしたの?」
 「出ていくのか?」
 魁吏くんは真剣な表情で私の目を見る。
 出ていくのか、ってそんなの・・・。
 「私にもまだわからないよ・・・」
 私は少し笑ったあと、ふるふると首を横に振った。
 それを見た後、魁吏くんはまたその端正な顔をゆがめる。
 わからない、とはいえ私が決めなくちゃ。