普段は郁弥くんは私にものすごく優しいんだけど、怒るときはちゃんと怒る。
 そして、怒っているときは声が低くなる。
 郁弥くんはこの週末、こっちのほうに帰ってきてたらしい。
 ついでに私の顔を見ようと、サプライズでここに寄ってくれたらしいんだけど、タイミングが悪かった。
 「謝るだけじゃ何もわからない。どういう経緯でこうなってるんだ」
 「それはその・・・伯母さんが・・・」
 「母さんが?」
 しどろもどろになりながらも、弁明しようと口を開いた。
 郁弥くんの問いかけに、コクリと頷く。
 そんな私の様子を見て郁弥くんは何かを察したのか、「母さん・・・」とつぶやきながら深いため息を吐いた。
 右手で顔も覆っている。
 ・・・やっぱり、後になってこういう風に発覚するよりかは、郁弥くんにも言っておくべきだったのかな。
 心配、かけちゃったよね。
 「どうして俺に一言でも言ってくれなかったんだ?母さんは面白がっていたかもしれないけど、俺は男二人と一つ屋根の下なんて知っていたら、シェアハウスを許可なんかしなかった」
 それはそう・・・だよね。
 真面目な郁弥くんのことだから、最初から知っていたら絶対にシェアハウスは断固拒否だったと思う。
 私も当初は、仕方なくって感じだったし。
 いつの間にか、このシェアハウスが当たり前になっちゃってただけで。
 いまからでも出ていくべき・・・なのかな?
 「・・・決めた、出ていくぞ」
 「え?」
 「新しい部屋探しは俺が手伝ってやる。こんなシェアハウス、終わらせよう」
 郁弥くんは私の腕を掴んで、無理矢理私を引っ張って立たせる。
 私よりも数倍強い郁弥くんの力を前に、私は抗うこともできず簡単に引っ張られてしまった。
 「郁弥くん、ちょっと待って、急すぎるよ・・・!」
 そのまま郁弥くんは早足で、私の制止も聞かず私を引きずりながら共有スペースを出ていこうとする。
 どうしよう、止まってくれない・・・!
 困っていたその時、ずっと黙っていた魁吏くんが私の掴まれていないほうの腕を握った。
 その力で、郁弥くんの足がやっと止まる。
 魁吏くんの顔を見上げると、明らかに不機嫌そうだった。
 「・・・離してくれないか」
 「・・・・・・」
 「絢花がいるべき場所は、こんなところじゃない」
 「桃瀬は嫌がってるだろ」
 二人とも、手にこめている力が強くなる。