映画はまだ始まっていないけど、顔に集まった熱をごまかすために私と魁吏くんの席の間に置かれたポップコーンに手を伸ばす。
 一つ口に入れて、もう一度ポップコーンの山に右手を持っていったとき、不意に反対側から伸びてきていた魁吏くんの左手と手があたる。
 お互いに少し手を引いて、顔を見合わせた。
 シアター内が暗くて良かった。
 明るかったら、私の真っ赤な顔が魁吏くんに見えてしまうから。
 その代わり、魁吏くんの顔色もよく見えてないけど。
 だけど・・・もしかして、魁吏くんも照れてる?
 さっき一瞬だけ触れた指先は、勘違いかもしれないけどいつもより熱かった。
 「・・・おい、何見てんだ。もうすぐ始まるぞ」
 「あっ、うん、そうだね」
 魁吏くんがふいっと目を逸らしたのを合図に、私もスクリーンに向き直った。


 「う、うう・・・。ぐすっ・・・・・・」
 「いつまで泣いてんだよ、桃瀬」
 「うう、だってぇ・・・」
 映画開始から約二時間後。
 いまだ感動の熱が抜けきらなくて泣きじゃくってる私に、魁吏くんが少し呆れたように声をかけた。
 私って、こんなにも涙もろかったっけ?
 動物系の感動ものには弱かったけど、こんなにも涙腺が崩壊してしまうなんて・・・。
 持参しているハンカチであふれてくる涙を拭いても拭いても、私も涙はとどまることを知らない。
 いけないいけない、早く泣き止まないと。
 何にも事情を知らない人が見たら、まるで魁吏くんが私を泣かせているみたいに見えちゃう。
 魁吏くんが変な目を向けられたりするのは、私も嫌だ。
 私の顔もきっと涙とかでぐしゃぐしゃで、とてもじゃないけど人に見せられる状態じゃないと思う。
 でも、でもぉ・・・。
 切なすぎるストーリーを思い出して、また涙が出てきた。
 泣き止みたいと思えば思うほど、感動がぶり返してきてしまう。
 「魁吏くんは全然泣いてないけど、感動しなかったの・・・?」
 「・・・好きな女の前で、涙なんか見せられるかよ」
 「え?ごめん、よく聞こえなかった。もう一回言ってもらってもいい?」
 「なんでもねえよ」
 嘘、絶対何か言ってたよ!
 あ、もしかしていよいよ私、泣きすぎて面倒くさがられてる?
 さっきもちょっと呆れ気味だったような気がするし。
 もし本当に面倒くさがられてるなら、なおさら早く泣き止まないと。
 「ごめんね、ずっと泣いてばっかりじゃめんどくさいよね。もうすぐで収まると思うから」