私たちがとったチケットは真ん中より少し上の席。
 周辺にまだ人は座っておらず、スムーズに席に着くことが出来そうだ。
 ポップコーンの置かれたおぼんを両手で持って、一段一段階段を上っていく。
 あと上る階段の段数も少なくなってきていたそのとき。
 「うわっ」
 薄暗くて足元がよく見えなかったせいか、私は階段の段差につまずいてしまった。
 危ない、これじゃポップコーン落としちゃう・・・!
 無意識のうちに、これから来るであろう衝撃にぎゅっと目をつむる。
 「っ、おい」
 ・・・けれど、私の身体にその衝撃は来ることなく。
 バランスを崩してよろめいた私を、咄嗟(とっさ)の判断と持ち前の反射神経を駆使して、魁吏くんが腕を回して支えてくれた。
 図らずも魁吏くんに抱き寄せられた形になって、魁吏くんの匂いが私を包む。
 ・・・って、こんな状況でも魁吏くんの匂いとかって考えてるなんて、私まるで変態じゃん!?
 違う違う、これは不慮(ふりょ)の事故であってそんな魁吏くんに抱きしめてもらうためにつまずいたとかじゃなくて・・・!
 あああ、心の中で弁明していくほどなんだか自分が怪しく思えてくる・・・。
 頭を悩ませている私の身体は、いまだ魁吏くんと密着したままだ。
 「ママー、あそこのお兄ちゃんとお姉ちゃんがいちゃいちゃしてるー!」
 「しーっ!」
 「「!!!!!!」」
 近くの座席に座っていた無邪気そうな男の子が、これまた無邪気そうな声をあげて無邪気そうな表情で私たちのことを指さした。
 ママと呼ばれた女性が、口の前に人差し指をあててその子をたしなめる。
 割と大きな声だったから、他のお客さんの視線が集中するのを感じて私と魁吏くんは反射的に体を離した。
 かああっと、顔が熱くなる。
 「あ、ありがとう。これからは、気を付けるね・・・」
 「・・・・・・おう」
 とりあえず、まだ伝えてなかったお礼を言ってそそくさと二人で座席に座る。
 そのころには、もう視線も収まっていた。
 ・・・けど、私たちの間には微熱を孕んだ無言の空間が依然として広がったまま。
 ・・・な、なんだか、すごいことを言われたような気がするぞ。
 私たち、周りからはちゃんといちゃいちゃしてるように、というか人前でいちゃつくようなカップルに見えてるんだ。
 いやいや、もちろん狙ってやったわけじゃなくてただの事故だけど!!
 ちょっぴり、照れくさいや。