恋人だったら、こういうことをするのも普通なのかな?
 手を繋ぐ、っていう単純な行為なのにこんなにも甘酸っぱくてくすぐったい。
 口元がにやついてるの、魁吏くんや周囲の通行人にバレちゃってないかちょっと心配。
 「で?どれを見るんだ?」
 シネマに無数に設置されている映画のタイトルや画像が映った電光掲示板を、魁吏くんが手を繋いでいないほうの指で指し示した。
 実は、デートの下調べをしてみて気になってる作品が一つあるんだよね。
 子犬と少年の絆を描いた映画なんだけど・・・。
 でも、魁吏くんってこういう感動ものの映画に興味あるのかなぁ・・・。
 その映画の電光掲示板の隣に飾られている、ホラー映画のほうが好きそうなイメージ。
 ・・・私は、ホラーとかおばけとかゾンビとかは大の苦手なんだけど。
 化学で証明できない存在だから、得意じゃないんだよね。
 「魁吏くんって、ホラー映画とかが好きだよね?」
 「まあ、一番見るジャンル」
 「だよね・・・」
 うーん、どうしよう。
 あんまり興味ないものに無理矢理付き合わされるのも、魁吏くんが可哀想だし。
 かといって、ホラー映画は私の精神が持つか心配だし。
 二人で別々の映画を見るっていうのは、論外すぎる選択肢だし。
 「・・・あれ、見るぞ」
 「え?」
 うむむむ、と唸って(うなって)いると頭上から魁吏くんの声が降ってきた。
 魁吏くんが『あれ』と言って指したのは、私が見たいと思っていた例の映画。
 私としては、その映画が見られるのはすごく嬉しいんだけど・・・。
 「魁吏くん、ホラー映画じゃなくていいの?」
 「・・・絶対、お前ホラーとかの(たぐい)が苦手だろ。化学じゃ証明できないから~、みたいな理由で」
 「えええ!?」
 すごい、理由までドンピシャだ!
 あまりにもわかりやすすぎる反応をしてしまったせいで、魁吏くんに「図星かよ」って笑われちゃった。
 本当にすごいなあ、魁吏くん。
 私という人間のことをよく理解していらっしゃる。
 私がわかりやすすぎるせいかもしれないけど。
 魁吏くん、私のことちゃんと見てちゃんと考えてくれてるんだ・・・。
 そのことを自覚して、きゅううぅぅって胸の奥が甘く疼いた(うずいた)
 子犬の映画のチケットと、二人で食べる用のキャラメル味のポップコーンを買って指定された番号のシアターの中に入る。
 中は薄暗く、何人かの先客が大きなスクリーンに映し出されている注意点の映像を見ていた。