「とても美味しゅうございます」
「君の口にも合って良かった」

 ツパイは上手く空気の入った歯触りの良い生地と、ちょうど良く酸味の効いたベリーの瑞々しさに感嘆し、王はそれを満足そうに認めて、やっと自身も口を付けた。

「あの……失礼ですが、こちらのお部屋は……?」

 それからフォークを二・三口進め、スッキリとした紅茶で一息を入れた頃、ツパイは恐る恐る王に問い掛けた。彼女が北の入り口から南の温室まで進んだ間も、東のこの開かれた空間へ移るまでも、見受けられた壁紙も調度も、全て女性らしい華やかな装飾が施されていたからだ。そしてこのバルコニーでさえも……可憐な蔓薔薇が欄干を伝い、今腰掛けている椅子もテーブルも、正直少女趣味としか言いようがない。

「ああ、さすがに僕の部屋じゃないよ。母がデリテリートに嫁ぐまで過ごした部屋。兄である先代王が母の為に残してくれたらしくてね、特に午前は明るくて気持ちが良いから、勝手に僕が使っているだけ。母は料理が好きだったから、隣に調理室も持っていて、僕にも色々と都合が良いものだから」
「はぁ……」

 料理好きとはまた珍しい趣味の王だが、先代王の妹君であられた母親の育った部屋ならば、感慨深いものもあるのだろう。そうでなくとも王の母は──

「長らくお心を患われていらっしゃるとお聞きしておりますが、容態は快方に向かわれているのでしょうか?」

 七年前の「あの事件」以降、心身を崩されたという噂は、国民にとっても周知の事実であった。

「いや、ずっと一進一退ってところかな。僕がこっちに来てしまったから、今は父が仕事を減らして看てくれているけれど……王って言うのも意外に執務が多くて、なかなか会いに行けないのが玉に(きず)だね」

 そう言って若い王は苦笑いをしたが、途端淡い微笑みに落ち着いて、同情を浮かべたツパイの口元に目を向けた。

「やっぱり、君で良いみたいだね」
「わたくしで……?」

 「うん」と一つ朗らかに頷いた王は、ややあって手にしたフォークを皿に戻した。