「茉由、これやるよ」

「え、いいの? ありがとう」

 この物語の主人公、松宮茉由(まつみやまゆ)、24歳。
 
「この前茉由にワッフルもらったしな」

「ありがとう、陸(りく)」
 
 陸とは入社が同じ同期で、よく話したりする。たまにスイーツを交換したり、飲み物をご馳走し合ったりする。
 ……それで陸は、私の好きな人なのだけど。

「茉由って、今度の休み何してる?」
 
「えっ!?」

 陸は鈍感なのか、私の気持ちに気付いてなさそうなのだ。
 陸は私のこと、どう思ってるのかな。

「は?そんな驚くことかよ?」 

「いや、ごめん。……でも何で急に?」

「いや、姉貴からビュッフェの食べ放題のチケットもらったんだけど、どうかなって思ってさ」

 それって……。デートの誘いってこと?
 そう思っていいの?

「ビュッフェ!? 行きたいっ!」

 私は食べることが大好きなことを、陸は知っているからこそのお誘いなんだと思ってる。

「んじゃ決まりだな。 土曜日の11時に、迎えに行くわ」

「え、迎えに来てくれるの?」

 陸って本当に優しい。優男だよ、陸。  
 でも陸のその優しさが、たまに不安にさせる。

「ああ。車で行った方がいいだろ?」

「う、うん。……ありがとう、陸」

「別に。 また連絡するわ」

 私はそんな陸の背中を呼び止めて「あ、あのさ陸!……ビュッフェって、二人で行くん、だよね?」と問いかけた。

「は? そうだけど……それが何?」
 
「う、うん。そうだよね! 楽しみに、してるね」

「ああ」

 陸は誰にでも優しい。カッコよくてメガネがよく似合ってて、スタイルも良くて。
 陸は女子から人気があるからこそ、私のことなんて異性として見ていないのではないか。そう思ってしまうんだ。