ケレト行きの船には乗客はあまり乗っておらず、席はたくさん空いている。呼吸を整えた後、「早く座れ」とツヤに促され、三人は席に向かう。

「イヅナ、荷物棚の上に乗せるから貸して?」

「ありがとう」

背の高いヴィンセントに荷物を置いてもらい、イヅナは席に座る。イヅナの目の前にはツヤが座っており、ツヤの隣がレオナード、イヅナの隣がヴィンセントだ。

ツヤは、ボウッとした表情で海を眺めている。何か考え事をしているのだな、とイヅナとヴィンセントが察した時、察しの悪い男であるレオナードがツヤの肩を叩いた。

「ツヤさん、何ボウッとしてるんですか?考え事ですか?」

悪気のない瞳でツヤに話しかけるレオナードに対し、イヅナは焦ってオロオロし、ヴィンセントは頭を抱えて「馬鹿」と呟く。

イヅナとヴィンセントは、無闇に話しかけたらツヤが怒るのではないかと考えていたのだが、レオナードに質問されたツヤは、予想に反して穏やかな表情だった。

「レオナード、お前の言う通り考え事をしていた」