船で一週間弱、列車で四時間近くかけ、イヅナたちは妖が出るという村へとやって来た。長旅で疲れていたイヅナたちだったが、目の前に広がる景色に心を奪われていく。

「綺麗だな……」

ツヤが呟く先には、山に囲まれた小さな村に美しい雨を降らす桜の木があった。白いものから梅のような鮮やかな赤までたくさんの種類の桜が花を咲かせている。

「こんなに桜って色んな色があるんだね」

ヴィンセントが呟き、イヅナも頷く。桜という花は父から話を聞いており、本などでその存在を知っていた。だが、実際に見ると知らなかったことが次々に見えてくる。

「こんな風に咲いて、こんな色をしているのね……」

イヅナがそう呟くと、不意にヴィンセントの指が髪に触れる。そして、「ついてたよ」と言い桜の花びらを摘んで笑いかけた。

「あ、ありがとう……」

何故かドキッとイヅナの鼓動が一瞬早くなる。少し触れられただけなのに、何故か意識してしまった。

「おっ、イヅナの顔真っ赤〜!」

レオナードがイヅナを見て揶揄うように笑い、イヅナは「うるさい!」と言いながらレオナードを殴ろうとする。すると、大きなクラクションの音が駅に響いた。