【完】再会した初恋の彼はチャラくて、イジワルで、ときどき優しい

そんなあなたと付き合うなんて死んでも嫌……。




「前にも言ったでしょ。私には好きな人がいるって。私はその人以外考えられない……」





あの人はあなたと違う。




あなたのように人を見下したりなんか絶対にしない。




「その男って春歌のエース候補の稲葉ってやつか?」





雅はコクンと静かに頷いた。






「へぇー」




な、何?!





そう言うと水谷は雅の頬に触れ、そのまま唇を重ねようとした瞬間、水谷の肩に大きな手が触れた。






「お前何やってんだ!?」





その手の主は稲葉。雅はその姿を見て肩の力が抜けた。





「この手離してくれる?俺今、小鳥遊さんと話しているから。キミ邪魔」
「うるさい。小鳥遊行くぞ」





水谷から手を離すとそのまま雅の手を引いて競技場の方に向かっていった。





「チッ。まぁいい。あとからまた奪えばいいんだから」







「ちょっと稲葉くん痛い」





「あ...悪い」






二人が向かった先は競技場の中ではなく、その裏に来ていた。






「ありがとう稲葉くん。稲葉くんが来てくれなかったら私…」






水谷くんに……考えただけで怖くなってきた。
「また震えてるぞ」





言われて気づいた雅は自分の肩を抑えようした瞬間、稲葉の腕の中に引き込まれていった。





「稲葉くん?」





「震えが止まるまでこうしててやる」





いつもはイジワルなのにこういう時は優しい。やっぱり稲葉くんはあの頃のままだ。






それに私も変わらなかった。私は今も昔を変わらずに稲葉くんが好き。






「そろそろ行こう。皆心配してるかもよ」






自ら離れて少し無理をした笑顔で稲葉に伝える。






「もう平気なのか?」





「うん。ほら行こう」
練習は案の定遅刻。





怒った監督の指示で私たちは練習が終わったらここの掃除をすることになりました。






「稲葉もっとボールをよく見るのじゃ〜!」





「はい!」




練習では手を抜くことなく、真剣に取り組んでいる稲葉。





稲葉のメニューは花火絵監督の特別なもの。





普通よりこなすメニューが多く、すぐに体力の限界を迎えてしまうので有名。





遅刻のバツ、という訳ではなくて稲葉くんの午後の練習はこのメニューと監督は決めていたそうです。





ピーッ!





花火絵監督の笛で一斉に練習をストップし、監督の元へ集まる。
「次は基礎練習を海氷高校の皆とやるんじゃ。いつもはチームの皆のことしか見とらんから新鮮に感じるじゃろう。立冬監督もよいじゃろ?」





「こちらは問題ありません。それにしても思い切りましたね花火絵監督も」






「その為の合宿じゃ。己とライバルを知るのは一番大事なこと。知ったからこそ、より勝ちたいと思うようになる。それがわしの指導方じゃ」






考えたこともなかった。ライバル校と練習するのは自分の手の内を教えることになる。







それだとより弱点がつきやすくなって試合で不利になるかと思ってた。
そうじゃないんだ。






相手を知ったからこそ、自分の弱点克服するために努力しようと思う気持ちや勝ちたいと思う気持ちが生まれるんだ。






花火絵監督の指導法はマネージャーの私も考えさせられるものばかりだ。






「さぁ始めるぞーい」






「「はい」」






そして海氷との合同練習が始まった。






同じチーム同士では固まらず、花火絵監督が決めた春歌と海氷の混合チームでトスやレシーブなどをローテーションして行っている。
雅たちマネージャーもそれぞれのチームについてその練習を記録する。





ちなみに雅は三年生の千田とペアで行っていた。





「小鳥遊さんはスマホで録画して。私は指示を出しながら春歌と海氷の記録をノートに書くから」





「はい」





指示を出しながらノートに記録か。私は同時にやるのはまだ出来ないな。






私も先輩くらいになれば出来るようになるかな。どうせなら今年中に出来るようになりたい。





そしたら仕事の幅も広がるはず。
「水谷合わせろ!」





「うるさい。俺に指示するな…!」







稲葉と水谷は同じチームになった。しかし二人の呼吸は中々合わない。






他のチームは徐々に呼吸が合ってきているのに。私のせいかな...。






「コラー!喧嘩しないで練習に集中しなさい!!」






千田の一言で二人は喧嘩をやめて練習に集中し始めた。






今のでちょっとカメラブレたけど、二人が練習に集中してくれてよかった。






あれ以上続けられたら練習でも試合でも支障が出るところだった。






私、千田先輩に助けられてばかりだな。
一年生だから間違いや出来ないことばかりじゃなくて、それを無くせるようにしていかないと。




ピピーッ!





「集合じゃ〜」





「海氷も春歌と同じ場所に集まれー」







気づけば練習時間は終わっていた。






お互いの高校はぎこちなさは残っているものの、最初よりは打ち解けている様子だった。








「今日はここまでじゃ。ここの掃除は春歌の稲葉と小鳥遊が行うことになっている。皆はコテージに戻って身体を休めるのじゃ」







「では、解散!」