【完】再会した初恋の彼はチャラくて、イジワルで、ときどき優しい

「小鳥遊ちゃ〜ん荷物はベンチに置いといてくれ」






「はい!」






ベンチか。





えっと、春歌高校のベンチは非常口近くにあったはず。





「小鳥遊?」






「え?」






呼ばれて振り向くと、海氷高校の生徒が雅に近づいてきた。






その姿を見た雅は荷物を地面に落としてしまう。






嘘…。





どうしてここにいるの。






「やっぱり小鳥遊だ。覚えているか?同じ中学だった水谷 葵(みずたに あおい)」






忘れもしない。






私が中学の時に一番恐れていた人物。





それが水谷葵くん。





私のトラウマの原因だ。
「なんで、水谷くんがここに....」






『小鳥遊って顔が可愛いだけで性格はすっげ〜ブスなんだぜ。あんな奴に付き合う男なんていねーよな。ははは…!』







思い出したくなった記憶。





水谷くんにそう言われてから私はずっとこの伊達メガネをかけている。






こんな顔、見られたらまた何を言われるか分からなかったから……。




「小鳥遊知り合いか?」






稲葉くん。






怖くなった雅は水谷から顔を隠すように稲葉の後ろに隠れた。







稲葉は何が起こっているかは分からなかったが、雅の怯えた姿を見て水谷は雅にとって何かあると思った。
「おいおいせっかく再会した同級生にそれはないだろ?」





うるさい。





あんたのせいで私はこんなに怯えているのよ。





それが分からないの?






「悪いが小鳥遊はお前とは話したくないそうだ。行くぞ」






「う、うん...」






稲葉くんがいてくれなかったら私はどうなっていたのか。






考えるだけでも怖い…。






「何があったかしないけど、アイツには近づくな」






「うん。稲葉くん」







「あとで話聞いてくれる?」







「あぁ。練習が終わったら全て聞く」
競技場に入った春歌高校バレー部と海氷高校バレー部。





それぞれ自分たちのメニューをこなしている。マネージャーの数人は相手高校の選手の観察。






動きや癖などをノートにまとめている。







稲葉くんの言う通り、選手のレベルは高い。






スパイクまでの流れが春歌高校に比べてとてもスムーズだ。






「おい、こっちにボールをまわせ!」





ビクッ!






水谷くんの声だけでこんなに身体が震えてしまう。






大丈夫ここには皆がいる。







だから私は怯えなくていいんだ。
午前中の練習が終わって時刻は正午になり、お昼ご飯の時間となった。






初日の昼食は競技場を管理している人たちからお弁当が配られた。






のり弁、シャケ弁、地元名物たけのこ弁当とバリエーションたっぷり。






どれも美味しそう〜。






「まだ決めないのか?早くしないと休憩終わるぞ?」





「稲葉くんは決めたの?」






「まだ。どれも美味しそうだから迷ってる」






私と同じじゃん。





けど休憩時間考えたらそろそろ決めないと。






よし!たけのこ弁当に決定…!
「小鳥遊はたけのこ弁当か。じゃあ俺はハンバーグ弁当にするか。あとでちょっとおかず分けてくれ」





「ハンバーグ分けてくれるならいいよ?」






動いたあとの皆の食事の量はとても多い。





私のおかずあげたら食べる分が無くなるからこれくらいいいよね?






「ちっ。やっぱり言わなきゃよかった」







「何さそれー。稲葉くんってちょっとケチだよね。いつもドリンク作ったり、タオル渡したり、アイシングしてるのは誰だと思ってるのさ!?」





もう稲葉くんのために何もしなくてもいいなら別だけど。




「分かったわかった。やるからそう怒るな」
たけのことハンバーグを半分ずつ交換して満足する二人。




そんな二人のやりとりと水谷はなぜか冷たい目で見ていた。





「おい水谷。練習前に春歌のマネージャーと話していたけど知り合いだったのか?」






二年の選手が話しかけると水谷は冷たい目から曇りのない目なり、口元も口角が上がっていた。







「はい、彼女は中学の時のクラスメイトでして。俺、あの子のこと好きだったんですよ」







「ほぉ〜。バレーだけの男だと思っていたが、結構可愛いところがあるじゃないか!せっかく再会したんだから告白しとけよ?」







「はい。……その前にあの男をどうにかしないとな」
「ん?何か言ったか?」





「いえ、なんにも」







昼食を思ったより早く終えた雅は、残り休憩時間は外で風に当たることにした。






「んーやっぱり山の空気は美味しいな。残り五分か。ここに座って景色を眺めよう」






午後は海氷高校との合同練習。試合するわけじゃないけど、これも交流だと監督が言っていた。







それが夕方まであって、夜は特に何もないからみんな休むか、自主練という形になる。







私は今日まとめたノートをコピーして皆に配ろう。そして早く寝る…!







明日も早いんだし、休んでまたマネージャーの仕事を頑張るんだ。
初めは運動部なんて関わりたくないって思っていたけど、私はやっぱり文化系よりこっちの方があっているみたい。





そりゃそうか。





元運動部だもん。





身体動かすの好きだし、見るのも好き。







それに、今は稲葉くんがいるから楽しいと思える。






「小鳥遊さん。こんなところで何してるの?」







雅の心臓がドクンと大きな音が鳴った。






振り返るとそこには練習着のズボンのポケットに手を入れて雅を見下す水谷の姿があった。






その原因となった人物、水谷葵は雅との間をどんどん詰めていく。







「ねぇ、聞いてる?」







水谷くんがなんでここに...?